うつくしきもの「バデーニ先生、あの、できました」
ペンを置き、解答を差し出すその一瞬が一番緊張する。手のひらで大切にあたためたものが、冷たい世界に晒される瞬間。自分の作り上げたものが、不出来で無意味なものだとわかってしまう瞬間。
丸テーブルの向いに座った先生は、無言でぼくから計算用紙をひったくり、ルーペを近づけてしげしげと解答を眺め、
「全然違う」
と、一蹴した。
「まず立式が違う。ということは、そもそもこの問題が何を問うているかを理解していないということだ。いいか、第二の公準によれば……」
始まった。急に抗いがたい眠気に襲われる。
幾何学はどうしてもだめだ。第一、線の長さや図形の角度を求める問題が、人生にどうして重要なのかちっともわからない。建築や測量なら専門家がいるし、そっちに任せればいいのでは?
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