真珠採りと猫足と人魚 ああ、今日は最悪の誕生日だ。
とはいえ、レオナが生きてきた限りでは、この日が何事もなく済んだことは滅多にない。何度巡ってもこの季節は蒸し暑く、運の回りが悪い。
両脚を狭い車内に折り曲げたレオナはサイドガラスを苦々しく見つめていた。列をなしたタクシーは一向に進む様子がなく、世間話にも飽きた運転手がミラー越しに欠伸を嚙み殺す。耳障りなクラクションが鳴り響き、苛々と手元の液晶を確認するも、青白く光るそこにはひとつの通知も表示されていなかった。
深く皺の刻まれた眉間を揉みこむと、再びサイドガラスの外に目を向ける。盛大に吐き出したため息がガラスを白く曇らせた。涙のように絶え間なく流れ落ちていく雨の向こうに、夜の街の光が淡く溶けていく。本来ならば、今頃はこの夜景をふたりで見下ろしている頃だったのに。
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