今日は巳波とデートだ。
学校の授業が全部終わったあとに待ち合わせてどこかに行きませんかって、そう誘ってくれたのがだいたい一週間前のことだった。
最近はオレも巳波も忙しくてプライベートで会う時間がとれていなかったからこうして会う約束をできることそれ自体が嬉しい。
期末テストの期間と被っているからあんまりそわそわとしてもいられなかったけど、それでもはやる気持ちをおさえることなんてできなかった。
電車を乗り継いでついたのは自宅の最寄り駅。
せっかくのデートなんだし、制服じゃなくて私服でいきたい。
そう思ったから巳波には少しあとの時間を指定して待ち合わせ場所を決めていた。
なるべく早く会いたいから、さっさと帰ってさっさと着替えてさっさと家を出よう。そう思いながら家の玄関をあける。
「ただいま!」
「おかえりなさい、亥清さん」
帰宅したオレを出迎えた声を聞いた瞬間に思考が停止した。
間違えるはずもない、オレのよく知ってる声が聞こえた気がする。
「はるちゃんおかえりなさい。巳波くんが少し前に迎えに来てくれてたのよ。早く着替えてきなさい」
そういいながら台所からひょっこりと顔をだしたばあちゃんの手前側、居間には巳波の姿があった。
「み、巳波」
「はい、棗巳波です。こんにちは、亥清さん」
「いやそうじゃなくてなんでいるの」
「どうせならこちらで待っていたほうがよいかなと思いまして。おばあさまに色々なお話を伺えましたし」
「色々」
ばあちゃんは何を言ったんだろう。そう思いながら巳波のほう、正確には巳波の座っている横にあるテーブルを見るとその上にはアルバムがいくつか広げられていた。
「わぁ」
「どうされたんですかそんなに驚いて」
「それオレのアルバム」
「そうですよ。生まれたてのところからみて、今は幼稚園にはいる前のところまで見させて頂きました」
「恥ずかしいんだけど……」
「大丈夫ですよ。おひざに可愛らしい絆創膏をはってもらいながら泣いている姿も愛らしかったです」
「えぇ……」
ニコニコとした表情のまま写真にうつったチビのオレを撫でる巳波をみてドン引きしているとばあちゃんから着替えなくてもいいの?と聞かれた。
言いたいことは色々あるけど、早くデートに行きたいから着替えないと。
「そうだった! 急いで着替えてくるからちょっと待ってて!」
「お気遣いなく。亥清さんのアルバムを見ながら待たせていただいているので」
「……めっちゃ急ぐ!」
これ以上ページを捲られたらもっと恥ずかしい写真が出てくるかもしれない。
そう思ったらいてもたってもいられなくて、慌てて自分の部屋に向かうしかなかった。
部屋に入ってすぐに制服を脱いでハンガーにかけて、昨日のうちに選んでおいた服に着替えてボディバッグを掴む。
帽子を忘れるとこだった危ない。
忘れ物はない、靴下もちゃんと同じのをはいてる。
簡単な身嗜みチェックもして、急ぎ足で居間に戻ると巳波とばあちゃんが談笑していた。
「あらあら……ふふ。………………おかえりなさい、早かったですね」
「オレがいないとこでなんか恥ずかしいこと聞かれてたら困るから……」
「恥ずかしいだなんて……どのエピソードもかわいらしかったですよ」
ですよね?そうねぇ、なんて自分の彼氏とばあちゃんが微笑みあっている空間はなんとなく居心地がよろしくない。
「準備できたから、いこ。遅くなっちゃうから」
「ふふっ……そうですね。ではそろそろ悠さんとお出かけしてきますね」
「たいしたお構いもできずごめんなさいねぇ……」
「いえ……悠さんの可愛らしいエピソードをたくさん聞かせて頂けて楽しかったです」
「またいつでも遊びにきてちょうだいね」
「はい……今度またじっくりと悠さんのお話を聞かせてください」
「もーほら行くよ」
「あははっ…………」
「笑い事じゃないってば」
ころころと笑っている巳波を玄関に引っ張っていくと、背中の方から「気をつけて行ってくるのよ」ってほんわかした様子の声が聞こえてきてもっといたたまれない気持ちになったのはばあちゃんにも巳波にも内緒だ。