「くかー」と寝息を立ててお昼寝をする亥清さんを見つけたのは、森の奥深くだった。
普段四人で集まる場所よりさらに奥まったこの一角は、亥清さんのお気に入りのお昼寝スポットらしい。
腕を枕に、少し丸まって眠る彼のまわりにはリスやウサギが集まり、彼らもともにうたた寝している。
ここまで動物に好かれるのは、私たちの中では亥清さんだけだ。やがて大きな獣にまで懐かれてしまうのでは、と少し心配になる。
――それにしても、本当によく眠っていますね。
小動物のいない頭側に、そっと腰を下ろす。
憂いの影もない安らかな寝顔を眺めていると、こちらの心までほどけていく。
外の騒がしさも、賑やかなお兄さんたちの声も、いまは遠い。
耳に届くのは、風に揺れる木々の囁きと小鳥たちの愛らしい声だけだ。
そんな静けさのなか、亥清さんは相も変わらずすやすやと眠り続けている。
童話のお姫様のように、思わず口づけたくなる寝顔だ。
あまりにも無防備で、まるで誘っているかのように見えるけれど、彼自身はそんなことを夢にも思っていないだろう。
木漏れ日が心地よいここが静かで落ち着く――理由は、きっとそれだけの可愛らしいもの。
だから、今こうして寝ている彼によからぬことをするのはやめておこう。
――でも。
私たちは恋人同士なのだから、このくらいは許されるはず。
そんな身勝手な言い訳を心の中でしてから、身をかがめて彼に口づけた。
温かな吐息を含む唇を塞ぐと、鼻腔に彼の匂いが満ちる。
肩にとまっていた小鳥が慌てて羽ばたいたが、彼が目覚める気配はないし、私も気に留めることはなかった。
ずっと長く彼のそばにいて、愛を交わしてきたのは私のほうだ。だったら、私のほうが優先されてもよいはず。
いったん口づけをほどき、今度は向かい合うように身を横たえて、細い腰を抱き寄せながらもう一度口づける。
彼が目覚めるのはいつになるだろう。
どこまでしたら、起きてしまうのだろう。
そんな悪戯心が少しだけ思考の隅を掠めたけれど、さすがそこまで踏み込んでしまったら怒られてしまう気がする。
だから今は抑えて、続きは彼が目覚めたあとにたっぷり――そう決めておく。
「今はただ、よい夢を」
最後にそっと額へ口づけを落とし、私もまぶたを閉じた。