誓い 九月二十九日の夜。野分の部屋のカーテンの隙間から月明かりが漏れている。いつも俺、こと上條弘樹はこの時間、胸騒ぎに似た焦燥感を抱く。
野分は、今日は夜勤はないが明日が早番らしく、俺に忙しなくキスをして、おやすみなさいを言うと、俺を後ろから抱き込むような形で野分の部屋のベッドの上で眠ってしまった。
チクタクと時計の針が動いて、九月三十日になる。こんな台風の多い月に産まれた野分。何らかの理由があって、孤児院に捨てられた野分。きっと親も断腸の思いだっただろう。本当は自分で育てたかっただろう。なのに、野分を預ける事しかできなかった。けどな、今はその親に俺はありがとうと言いたい。その親のお陰で、今、こうして俺は野分と出会えているのだから。
野分、お誕生日おめでとう。お前が俺を幸せにするように、俺もお前を幸せにすると誓うよ。
野分の熱い左の手のひらを取ると、その薬指にキスをする。誓いの証だ。野分の左手を元あった場所に戻すと、うつらと瞼が降りてくる。微睡む。こうして野分と一緒に眠るだけの誕生日があってもいいかと思いつつ、俺は野分の腕の中で眠りについた。