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    あけつま

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    あけつま

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    文章──臆病すぎる、というのも困りものだな。
    男は手元の端末に目を通しながらため息をついた。記されているのは、自身がこれからこなすべき「仕事」の対象についての情報だ。なかなかどうして、この対象の再教育課程は上手くいっていないようで、その理由として書き加えられているコメントは端的に、一言。
    「虐めすぎた」

    再教育。数多の惑星で資源採掘(「略奪」の方が正しいという者もいる)を繰り返してきたアーキバスが編み出した、効率的な現地での人材調達手段。その対象は抵抗する現地住民や敵対企業だけでなく、社内の人間にも適用される。規則を破った者や問題行動を起こした者、或いは──権力を有した人間の逆鱗に触れた者。そういった社員を「調整」するのも再教育の役割である。
    企業に逆らった、という罪に対しての懲罰としての意味合いも兼ねているそれの内容は、マニュアルに則って施される現地人等を対象にしたものに比べて「担当者」の采配によるところが大きい。
    どうやら今回の対象は、不幸にも随分と加虐趣味の担当者に当たってしまったらしい。本人の臆病な気質が余計に趣味を煽ってしまったのか、端末のカリキュラム履歴には色々と痛々しい仕打ちが並べられていた。──まあ、だから自分に仕事が回ってきた訳だが。
    端末の情報を一通り確認し終えるのと、男が丁度対象が収容されている部屋に辿り着くのは同時だった。特にノック等はせず、IDカードを扉横の端末にかざして部屋の中に足を踏み入れる。情報が正しければ、今回の対象がこちらへ危害を加える可能性は殆ど無い。よって男は丸腰のままだった。
    部屋は全面が白で統一されていて、天井から床までクッション材が敷きつめられている。錯乱した被収容者の自傷行為を防ぐためだ。唯一の家具であるベッドも、立てかけたりできないよう床に固定されている。
    対象となる男は、部屋の隅に座り込んでいた。人が入ってきたにも関わらず微動だにしない。
    「2156、聞こえますか」
    対象の収容番号で呼びかけるが、返答はない。ゆっくりと近づいてみるが、依然人形のように固まったままだ。
    「2156」
    とうとう対象のすぐ目の前まで辿り着いてしまったので、しゃがみこんで様子を伺ってみる。辛うじて胸が上下しているので、どうやら呼吸はしているらしい。(遠目からみると死んでいるのではと不安になる程だったのだ)濁りきった瞳は虚ろで、虚空の一点を凝視している。自分だけの世界に逃げ込んで、現状を認識しないようにしているようだ。この施設に収容されている人間には、まあよく見られる状態である。
    仕方なく、男は呼びかけ方を変えることにした。対象の以前の識別名、その方が反応も良いだろう。耳元で指を鳴らしつつ、再度声をかける。
    「スウィンバーン隊長、こちらを見てください」
    微動だにしなかった身体がびくりと震え、瞳の焦点が徐々に戻ってくる。意識を現実に戻されたその男は、目の前に人がいることをようやっと認識して小さく悲鳴を漏らした。
    「き、今日のカリキュラムは終わりと言っただろう、や、やめてくれ、もういやだ…………!」
    やけにざらついた声で絞り出すように懇願される。泣き叫んで喉が枯れたのだろう、今日も随分と虐められたらしい。
    しかし男の仕事は再教育カリキュラムの進行では無いので、この懇願は聞き入れようが無かった。どんな仕打ちでもそれは担当者の決めたことなので、男が口を挟むことでは無い。這い蹲って靴でも舐めそうな勢いのスウィンバーンから距離を取りつつ、男は訂正の言葉をかけた。
    「いえ、俺はカリキュラム進行に来たのではありません。貴方に食事をさせに来ました」
    ──男の仕事は、食事を摂れずに衰弱した眼前の対象、その生命を存続させる事だ。
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