バレンタインボイバグ(現パロ) ボイドール達の家のキッチン。ボイドールはいつもツインテールにしている髪を後ろで一つに束ね、エプロンを着て、三角巾を着ける。目の前にはボウルに泡立て器、ゴムベラ、ふるい、秤といったお菓子作りに欠かせない道具。そして板チョコや砂糖、卵、ココアパウダー、生クリーム。そう、今日はバレンタインである。今日は授業が午前中で終わり部活も無かった事から準備時間を確保する事ができた。バグドールは部活があるので帰りが遅くなるらしいし、ハカセも仕事で今はいない。絶好の機会だ。着ていたパーカーの袖を捲り、手を洗ってチョコレート作りの始まりだ。あらかじめコピーしておいたレシピに目を通す。
「まずは……ガナッシュを作りましょう」
鍋に生クリームを入れて、火にかけて温める。その間に板チョコを割り、生クリームが沸騰寸前になったらその中に入れる。チョコが溶けきるまでゴムベラでよくかき混ぜる。溶かし終わったらボウルに移し入れ、冷蔵庫に入れて冷やす。そして冷やしている間に今度はマカロンの生地を作っていく。初めて作るはずなのに、かなりの手際の良さだ。ココアパウダーなどの粉類を篩にかけ、卵白をハンドミキサーで泡立てメレンゲを作っていく。グラニュー糖を加え泡立ちを確認し、泡立ったら篩にかけた粉類を入れて優しくかき混ぜていく。そして気泡を潰しながら、ふんわりと仕上がるようにゆっくり掬い上げては垂らしを繰り返す。程よく混ぜ終わり、オーブンを予熱したらついに生地を絞る時間だ。絞り袋に入れてホイップクリームの容量で絞り出していく。まず試しに焼いてみる用の生地を5個程と、成功を確認した後に焼く用の生地を沢山。予熱完了したのを確認してオーブンに試しの生地を入れてスイッチを入れる。焼けるのを待っている間に洗い物を済ませて時間を確認。幸いまだ2人が帰ってくるまで時間はたっぷりある。万が一失敗しても大丈夫だろう。丁度オーブンが焼き上がりを告げる。開けて確認したボイドールは目を見開く。焼き上がったマカロン生地は割れていた。事前に確認して良かった、と胸を撫で下ろしつつ原因を調べる。どうやら焼く前に表面が乾いていなかったらしい。これから焼く方を確認すると、そちらは時間の経過もあってかきちんと乾いていた。
「…っ、同じミスはあり得ません。絶対に」
そう言いつつも、上手くいきますようにと祈りながら予熱し直したオーブンへ生地を入れ、焼き上がりを待つ。焼き上がりの音が鳴る。高鳴る心臓の鼓動を抑えながら、再度オーブンを開けた。今度は綺麗に焼き上がっていた。無事成功したのだ。オーブンから取り出し、冷やしていたガナッシュを挟んで、チョコペンで少し細工をして…ついに完成した。
「やった…!」
そう小声で呟いた直後、ドアが開く音がする。エプロンを付けたまま玄関に出てみると、ハカセとバグドールが一緒に帰ってきた。
「ぁ…おかえりなさい…!」
「ただいま〜…ん?その格好は…?」
きょとんとした2人をそそくさとリビングへ誘導する。が、バグドールがキッチンをひょいっと覗き込む。
「何作ってたんだ?」
バグドールがマカロンを視認し、ハカセを手招きする。せっかくサプライズにしようと思ったのに、と言わんばかりにボイドールがバグドールをポカポカと殴る。
「は?ちょ、何だよ…!」
「これ…ボイドールが?」
「……はい」
白い頬を赤く染めながらボイドールが口の端でそう呟く。2人は感心した様子でマカロンを観察している。ハカセがふっと微笑みながら優しい声色で言う。
「…今日はマカロンをお茶菓子にしてコーヒーでも飲もうかな。2人も一緒にどう?」
目を輝かせて何度も頷くバグドールに、ボイドールはニヤッと笑う。
「バグドール、アナタにはこちらを」
そう言ってボイドールが差し出したのは、割れた方のマカロン生地。バグドールも怒り出す。
「なんでボクだけ失敗作食べないといけないんだ!不公平だろ!?」
「先程せっかくのサプライズを台無しにした罰です」
いつも通りの口喧嘩を、いつも通りハカセが仲裁する。
「まぁまぁ、バグドールもそんなつもりじゃ無かったんだろう?ボイドールも、込められた気持ちがすごく嬉しいから。さ、皆でお茶の時間にしよう」
ハカセの言葉はいつも、2人には魔法のように作用する。2人とも少し不満げな顔をしつつも、お茶の準備を始めた。いつもの日常の時間が、3人の間を流れていた。