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    spica8cosmos

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    spica8cosmos

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    ※原作未読者です。
    ※アニメのみの知識で書いているので、キャラの設定や口調、性格などの捏造あると思います。
    ※恋愛感情というよりも友愛の方が強いです。
    以上を踏まえてお読みください。

    県祭り後の話「久美子ちゃん」
     鈴が鳴るような心地のいいその声は、久美子の心臓をギュッと締め付け、肩を跳ね上がらせた。マウスピースから口を離し、ユーフォニアムを傾けて視線をその相手に向ける。
    「真由ちゃん……」
    「あ、ごめんね。また驚かしちゃったかな?」
     久美子の反応に申し訳なさそうに真由は首を少し傾ける。その時にさらりとした細く長い毛が肩からするりと落ちた。
    「ううん。ごめん、集中してて……」
     久美子はよっこいしょとユーフォニアムを膝から下ろして真由ちゃんに向き直る。
    「それで真由ちゃんはどうしたの? また個人練の場所探し?」
     今は個人練習の時間だ。久美子はいつも通り校舎裏の定位置で一人練習に励んでいた。そこへ真由がやってきた。あの県祭りの前の日のように――
     久美子がそう尋ねると真由は首を振る。
    「ううん。違うの。久美子ちゃんと話をしたくて」
    「え……」
     目を丸くする久美子に真由は形のいい唇をゆっくりと動かす。
    「県祭り」
    「っ」
    「教えてくれてありがとう。おかげでみんなと楽しく過ごせたよ」
     にっこりと邪気のない笑顔を向けてくる真由に久美子は居心地の悪さを感じる。別に責められているわけではないのに、ここまで罪悪感を感じてしまうのは、久美子が咄嗟に真由に嘘をついて県祭りの誘いを断ってしまったことが原因だ。それは久美子も分かっていた。だから県祭り翌日の今日はできるだけその話題を避けていたのだが――久美子はそう思いながらも笑顔を浮かべる。
    「そ、そっか。ならよかったよ。奏ちゃんも梨々花ちゃんと行ったって言ってたけど会えた?」
    「ううん。会えなかった。人思ったよりもすごくて。あ、でも塚本くんたちとは会えたよ」
    「あー、そっかぁ」
    「写真撮ったからあとでよかったら見せるよ」
    「ほんと? じゃああとで見せてもらおうかな。ありがと――」
     そうお礼を続けようとした久美子に「あ、そういえば」と思いましたように言葉を被せる。
    「久美子ちゃんとも会えなかったよね。県祭り来てなかったの?」
    「えっ」
    思わず、全身の筋肉が硬直してしまう。久美子は視線を逸らしながら「あー、えーっと……」と歯切れの悪い返答をする。
    「わ、たしは……友達の家に行ってて……」
    「あ、そうなんだ。それじゃあ会わないね」
    「うん。毎年行ってたから今年は敢えて……」
     別に今度は嘘をついていないのに、何故か心臓がバクバクと大きな音を立てる。チラリと表情を盗み見ると、真由は相変わらず穏やかな笑顔を浮かべているだけだった。
    「そうだよね。同じ地域に住んでたらお祭りとかも特別感ないかも」
    「あ、はは……」
     乾いた笑いを溢す久美子に真由もフフと笑って言葉を紡ぐ。
    「もしかして――高坂さんが先約の人?」
     ゾクリ。と背中を冷たいものが走る。久美子は思わず貼り付けていた笑みが剥がれ落ちた。
    「あ、その反応。やっぱり」
     対する真由は当たったことが嬉しいのかクスクスと上品に手元を隠して笑う。久美子はそんな真由を呆然と見つめる。
    「高坂さんと久美子ちゃんって、本当に仲良しだよね。奏ちゃんと久美子ちゃんも仲良しだけど、また違うっていうか……吹部の中でも一番特別感がある気がする」
     まるで宝物を見つけたように真由は頬を緩め、瞳を細める。
    「いいよね。二人の関係性。私も二人みたいになれたらなぁって思ってるの」
    「そ、れは……」
    どういう意図を持ってなのか。久美子は真由の言葉の真理が読めず、ただただ困惑してしまう。そんな久美子に気付いているのかいないのか、真由はまた上品に笑ってみせる。
    「高坂さん。とっても素敵な人だね。綺麗だし、性格も真っ直ぐだし……何より演奏が上手。あんなにトランペット上手い人、私初めて」
    「…………」
    真由の言葉一つ一つは、麗奈を褒め称えるものでそれは久美子とっても同意できる言葉であるはずなのに――どうしてこんなにも胸をざわつかせるのだろうか。
    「ねぇ、久美子ちゃん。〝高坂さん〟って――」
    「っ、麗奈は――!!」
    気付いた時。久美子はそう声を上げていた。胸のざわめきを掻き消すように、そう声に出ていた。話を続けようとしたところを遮られた真由は目をキョトンとさせて久美子を見つめる。久美子もその視線にハッとして慌てて、口をパクパクと金魚のように開閉させて、しどろもどろに言葉を紡ぐ。
    「れ、麗奈は……その、あまり人付き合いとか得意じゃなくて……大勢の人とどこか行くっていうのも得意じゃないから……それで県祭りの日も私と二人で遊びたいって言ってくれてたから……」
     まるで言い訳をするように久美子は言葉を選ぶ。そんな久美子に真由は追求することなく「そうなんだ」と笑顔で返答した。だがその時の笑顔はどこか寂しそうに久美子には見えた。それに気付きながらも、久美子も見て見ぬふりをするように「うん」と視線を逸らした。

    ♦︎♦︎

    「ーーーーー、私って最悪だぁ〜〜〜」
    久美子は電車の座席に座りながら、吐き出すようにそう言ってカバンに顔を埋める。そんな久美子を怪訝な表情で見つめる麗奈。
    「何? どうしたの」
    「……自分の性格の悪さに辟易してるところ……」
    「何それ。今更でしょ、久美子が性格悪いのなんて」
    「ちょっと〜、慰めて欲しいんですけど〜」
    「慰めてるじゃない、十分」
    麗奈のその言葉に、久美子は麗奈ってこうだよな〜と思いながらも今はかえってそれが心地がいい。
    「はぁ……なんか麗奈って感じだ」
    「それ、褒めてる?」
    「うん。褒めてる」
     ニヤニヤと笑いながら言う久美子に「絶対嘘」と麗奈は久美子を肘で小突く。久美子はへへっと笑うが、頭の隅にはやっぱり今日のことが離れない。
     ――あの時。真由から麗奈の話をされた時。咄嗟に久美子の口から出そうになった言葉。
    〝麗奈はダメ!!〟
     今思い返してもどうしてあんな言葉が出てきそうになったのかが分からない。単に麗奈を真由に取られたくないという久美子の嫉妬心だったのか、それとも久美子の大事な部分に触れてきそう真由への畏怖からなのか……どちらにしても、久美子は確実にあの瞬間真由に対して〝拒絶〟を反射的に起こした。きっとそれは真由にも伝わっているだろう。根拠はないが、確信めいたものがあった。
     悪いことしてしまったかもしれない――そう、最後少しだけ感じだ真由の寂しそうな笑顔に胸がズキリと痛くなる。久美子はそんな痛みに顔を歪め、胸を抑える。
    「……久美子?」
    「あ、ごめん。なんでもない」
    心配気に覗き込んでくる麗奈に久美子が笑って誤魔化す。
    「何か悩み事なら聞くけど」
    「んーん。私って麗奈のこと大好きなんだなぁって思っただけ」
    「っ、何それ……バカみたい」
    麗奈は頬をほんのり染めてそっぽを向く。そんな麗奈に久美子は「照れてる?」と揶揄えば「あー、もううるさい!」とまた小突かれる。久美子はそんな麗奈に口を開きかけたがやめた。こんなこと聞く勇気はない。どんな言葉も麗奈の口から聞く真由の評価は聞くのが怖い。そう思っていた時だった。
    「――ねぇ、久美子ってさ。黒江さんのことどう思ってるの?」
    「ひゃぇっ!?」
     まさか相手からのその問いかけをされると思っていなかった久美子は素っ頓狂な声を上げてしまう。
    「なに驚いてるの」
    「い、いや……別に……」
    久美子は目線を泳がせるが麗奈は「で、どうなの?」と返答を促す。
    「え……どうって言うのは……前言った上手いよねって話とかではなく?」
    「演奏者としてだけじゃなくて、人柄として」
    「え〜……う、うーん……いい子だと思うけど。優しいし、気配りもできるし、裁縫とかもできて器用だなぁって……」
    「ふーん」
    聞いておきながら面白くなさそうな麗奈に久美子は戸惑う。麗奈は続けて「それで?」と続けさせようとする。
    「黒江さんともっと仲良くなりたいと思うの?」
    「えぇ?」
    「私と黒江さんなら、久美子はどっちを選ぶの?」
    「へっ!?」
    ズイズイと聞いてくる麗奈に久美子は本日2回目の素っ頓狂な声を上げてしまう。だが麗奈の視線が逃がさないとばかりに向けられてため久美子は「れ、麗奈……」と答える。
    「ふぅん……そう。ならいい」
    麗奈は久美子の返答を聞くと満足そうに視線を前へと戻す。そんな麗奈に数回瞬きを繰り返した後、久美子はフッと吹き出す。
    「麗奈もしかしてそれって……」
    「何笑ってるの」
    「んーん、なんでもない」
    ムッとする麗奈に久美子は口角が緩む。なんだ、麗奈もちゃんと同じ気持ちなんだ。久美子はその事実にさっきまでの黒いモヤが晴れていくのを感じるのだった。

    ♦︎♦︎

     マウスピースに息を吹き込み、ピストンを思いのままに動かしていく。吹き込む息の量、唇の形――それは真由にとっては考えなくても自然とできることだ。美しく柔らかい音色が、青と紫に包まれていく空に吸い込まれていく。
     真由はふぅ……と一息おいて空を見上げる。今日も一日が終わろうとしていた。空を見上げ、思い出すのは今日の出来事。
    「久美子ちゃん……怒ってたのかな」
    麗奈の話を振った時、今まで見たことのない形相で久美子に話を遮られた。あれはきっと不快感からくるものだ。だけど自分の何が原因で不快にさせてしまったのか、真由は見当が付かなかった。
     真由は久美子と仲良くしたいだけなのにどうしても上手くいかない。
    「いいなぁ、高坂さん……」
    久美子と麗奈は、転入してきたばかりの真由でも一瞬で分かるほどに強い絆で結ばれているのが分かった。いや、絆なんて言葉には表せないほどにあの二人は〝特別〟なのだ。誰も付け入る隙がないほどに――。
     そんなことは分かっていた。でもそれを今回改めて実感させられた気がする。

     実は久美子と会う前、真由は麗奈とも途中で出会っていた。あまり話す機会がなかったこともあり、世間話程度に久美子と同様、県祭りの話を振った。
    「本当は久美子ちゃんを最初に誘ったんだけど先約があるって言われちゃったんだ」
    「……そう」
    真由の話に興味なさそうに麗奈は視線を前へと戻したが、その時の顔はとても嬉しそうだった。その瞬間、久美子の先約の相手は麗奈だったのではないかと真由は勘づいた。だけどあえてそこには触れず、もう一つある話を振った。
    「私ね、久美子ちゃんともっと仲良くなりたいの。高坂さんは久美子ちゃんと仲良いし、何か久美子ちゃんのことで知ってることがあれば教えて欲しいんだけど……」
    そう真由が聞くと眉をぴくりとも動かさず麗奈は言った。
    「悪いけど、久美子と仲良くなりたいなら久美子本人に聞いた方がいいと思う。それで仲良くなるかならないかは久美子が決めることだから」
     そうピシャリと麗奈は言い放ち、そのあとはコンクール曲の練習へと戻ってしまった。まるで貴方にこれ以上話すことはありませんと言われたようだった。

    「久美子ちゃんともっと仲良くなれたらいいなぁ」
    高坂さんのように――と心の中で付け加える。
    初めて会ったあの日から、真由にとって久美子は特別だった。ユーフォニアムが似合う女の子。あんな子は初めてだった。
    二人でこうやって土手に並んでユーフォニアムを吹く。きっと素敵だ。あの県祭り前の個人練習の時のように。あの瞬間は真由にとってとても楽しいひとときだった。
     久美子は演奏が上手い。だから一緒に演奏していて楽しいし、気持ちがいい。
    「また明日一緒に演奏しようって声をかけてみよう」
    久美子のことを思い浮かべながら真由は再びユーフォニアムを吹き始めるのだった。


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