チップスとパイント「続けてくれ」
ガブリエルは一度そう言ってから、今のはまるで部下に申しつけるような言い方だったかもしれないと思って言い直した。「続けてほしい」
「何を?」
と向かいに座る悪魔は言った。
話題は途切れて、今はただベルゼブブが喉を鳴らしてビールを飲んでいるところだった。それと2皿目のチップスを、こちらも飲むように口に入れてもいた。
「それを……なんだっけ? それらを体に入れるのを」
「ものを飲んだり食べたりするのがまだ新鮮か?」
真面目な天使だ。彼の前にもベルゼブブと同じグラスが置かれているが、あまり進んでいないようだった。
「美味くないか?」
「ん?」
「そっちはあんまり飲んでいないようだから」
グラスを目で示すとガブリエルはまるで自分の前にそれが置かれているのを今思い出したような顔をした。
「ちょっと苦い」
「お気に召さなかったか」
「君が飲んでいるところを見ている方がいい」
「何?」
ベルゼブブは笑ったが、向かいの天使は笑わなかった。じっとこちらを見つめて繰り返す。
「君が食べたり飲んだりするのを見るのが好きなんだ」
喉を滑り落ちるビールがやけに冷たく感じた。舌は火を舐めたようだ。濃いコーヒーを一気に飲み下したみたいに落ち着かない気分が込み上げてくる。
「ガブリエル、お前今悪魔みたいな顔をしてるぞ」
そう言ってやると、大天使ははっとして頬をおさえて困ったように笑った。
「それは、君みたいな顔か?」
「……そう? そうかも」
ほとんど手つかずだったグラスに指が触れて、慣れない動きでそれを口元に運ぶ。一口啜って……本当に苦くて口に合わないらしい、ぎゅっと強く目をつむって眉を寄せる。
「君みたいな顔なら、別にいいな」
「へえ?」
「そうなってもいい」
そう言われても、ベルゼブブは今自分が悪魔らしい顔をしている自信はなかった。ビールはまだ妙に冷たく感じたし、不自然に愉快で、浮ついた気分だった。