冬彰
どんな場合にも、人が自己の感情を完全に表現しようと思つたら、それは容易のわざではない。この場合には言葉は何の役にもたたない。そこには音楽と詩があるばかりである。(萩原朔太郎『月に吠える』)
序章
燦々と煌めくスポット。
それが俺たちの肌を焼き尽くして、血液を沸騰させようとする。汗と酸欠で潤んだ目がぐらぐら霞む。吸っても吸っても上手く入らない息が、喉元を掠れて音楽に。低いベースが頭を殴って、エレキギターは胸ぐらを掴む。ストリングスとシンセサイザは、きりきり鼓膜を締め付けた。
「Vivid BAD SQUAD、まだいけるよ!」
拳を突き上げると、青い毛先から美しい水が散る。割れそうな程に歓声が上がって、杏の表情がぎゅっと堪えるように歪む。真っ赤な血潮を指先まではらませて、また爪の食いこんだ拳を突き上げる。
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