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    10/19発行予定 シャリ+エグの🟧くん記憶喪失本の導入です
    起承転結の起 くらい
    ※ 部下に対するにしてはだいぶ重い🟩さんがいる
    ※ もぶもいっぱい喋る

    10/19新刊 サンプルっぽいやつ エグザベ・オリベがMIAになった。

     その知らせは、シャリア・ブルの別任務が完了し、帰還する途中で齎された。さあっと血の気が引く感覚。心臓が大きく跳ねる。至急だという報告を取り次いだコモリ・ハーコートは言葉を失った。端的に用件だけを告げた通信機はぷつりと無感情に切れてしまい、それ以上のことを知ることは出来なかった。
    「中佐、あの。今のは…」
    「……私達の聞き間違いでなければ、エグザベ少尉がMIAになった、ということですね」
    「そんな…」
    コモリが手元の端末を握り締める。シャリアも、手袋をしていなければ手のひらには爪の痕が残っていただろう。額にもう片方の手を置いた後、大きく息を吐いた。
    「ひとまず帰還を急ぎましょう。あまりにも情報がない。このままでは動きようもありません」
    「そう、ですね」
    コモリはシャリアの言葉に従い、指定された席へと腰を下ろした。それでもやはり落ち着かないようで、端末の上を細い指先が何度も行き来している。シャリアはそれを咎めることなく、窓の外へ視線を向けた。反射で映り込む自身の顔に、酷いものだ、と内心自嘲する。眠れる訳でもないのに、シャリアはそっと目を閉じた。
    ズムシティまでの道程がやけに長く感じる。ああすべて夢であれば良いのに。


     帰還したシャリアはまず、自身の職務を全うすべく報告を終えた。気遣わし気な視線には気付かないふりをして、構えている執務室までの道を急ぐ。既にコモリが情報を集め始めているはずだ。扉を開けると、中にいたコモリが振り返る。
    「お疲れ様です」
    「ええ。…どうですか?」
    「正直、芳しくありません」
    コモリによって報告された事柄は以下の通りだ。エグザベは事前に報告と申請があった通り、別動隊としてとあるコロニー周辺の哨戒任務に当たっていた。イオマグヌッソの一件以降、戦力が大きく削られてしまったジオンにとって、エグザベという戦力は行いを差し引いたとしても有用な存在であり、こうして時折派遣されることがあった。もちろん、優先されるのは上司であるシャリアであるが、今回のシャリアの任務には危険性が伴わないこと、また、補佐としてコモリが同行することもあり、エグザベは別行動となっていたのだった。
    「今回は哨戒を中心とした任務だと聞いていましたが…」
    「はい。その通りです」
    予定通り、エグザベは哨戒任務に当たっていたという。しばらくは問題もなく、また、派遣された艦内に顔見知りもいたことから、比較的穏やかに過ごせていたそうだ。しかし五日目に問題が起こる。規定ルートを運航していた艦に異常が発生し、停泊。周囲を探るべく出撃したエグザベだったが、突然通信状態が悪くなり、回線を繋ぎ直そうとした直後、眩しい光が周囲を襲った。
    「…その後、何度呼びかけても通信は復旧せず、機体の反応が消失したことからMIAと判断。一応別の人間が反応消失地点を捜索したそうですが、手掛かりは得られなかったそうです」
    「ふむ。…その際の通信データはありますか?」
    「用意してあります」
    端末を操作し、コモリがひとつのファイルを取り出す。それをタップすると音声が流れ始めた。コモリが音量を上げる。

    ――――
    『少尉、エグザベ少尉!聞こえますか?』
    『…こえ…す、』
    『ダメだ、途切れちまう』
    『他の通信系統はどうなってる!』
    『異常ありません!現に、救助要請をした艦からの通信は受信できています!』
    『くそ、どうなってるんだ…』
    『これ、…だ、…きと同…』
    『少尉、今回線を繋ぎ直す。これが上手くいかなかったら帰還してくれ』
    数秒の空白。次の瞬間。
    『ッうわぁ!』
    『なんだ、眩しい…』
    『周囲警戒!』
    『少尉との通信は
    『やってる!やってるさ!…エグザベ少尉!聞こえるか、おい!…くそ、うんともすんとも言わん!』
    『そんな…』
    『今度はなんだ!』
    『え、エグザベ少尉のギャンの反応がありません!』
    『何だと?あの一瞬で撃墜されたとでもいうのか?』
    『けど、レーダーに敵影は…』
    ――――

    「以上です。もう一度お聞きになられますか?」
    「いえ、結構です。ありがとうございます」
    さて、どうするか。ソファに腰を下ろして、シャリアは天井を見上げた。コモリの腕をもってしてもこれほどしか情報が得られないとは。
    「艦に異常が発生したタイミングと、閃光が発生したタイミングの詳細データはありますか?」
    「申請はしていますが、まだ解析が終わっていないようで」
    「…そうですか」
    その時、シャリアの端末が鳴った。基本的にシャリア宛の用件はコモリを通じて伝えられるため、直接連絡が来ることはない。そのため、考えられるとすれば、これはアルテイシアかその側近から。
    「――はい。…ええ、そうです。……それは、」
    ちら、とシャリアがコモリを見た。コモリが首を傾げる。
    「…分かりました。ではすぐに。…はい、ありがとうございます」
    通話を切ったシャリアが立ち上げる。相手は予想通り、アルテイシア側近のランバ・ラルであった。コモリは「動かれますか?」とだけ尋ねる。ジャケットの皺を伸ばしながら、シャリアはそれに頷いた。
    「コモリ少尉、貴女もご指名です。ついてきてください」
    そう口にすると、シャリアが部屋を出て行く。供を命じられたコモリは慌ててその後を追い掛けた。時刻は夕方から夜に変わる頃を示していた。

     通された部屋は広く、静かな場所だった。シャリアの隣に控えるコモリが落ち着かない様子で室内を見回す。そこで部屋の違和感に気付いた。
    「(そうか、この部屋、窓がないんだ)」
    「よく気が付きましたね」
    「わ、」
    「ここは要人の会合にも使われる部屋です。窓があると狙撃される可能性がある。だからこの部屋には窓がないんです」
    「なるほど」
    シャリアは既に何度かここを訪れたことのあるような口ぶりだった。コモリやエグザベが留守を守っている間、訪れたことがあるのだろうと結論付ける。そうしている内に、閉じられたままだった扉が開く。シャリアとコモリはそちらに体を向けた。
    現れたのはランバ・ラルだった。挨拶もそこそこに本題に入る。内容はエグザベのことだった。
    「…では、エグザベ少尉の捜索は認めない、と?」
    冷ややかな空気が流れる。シャリアの灰緑色の瞳が鈍く光っていた。その視線を正面から受け止め、ランバ・ラルはひとつ息を吐く。それからシャリアの名前を呼んだ。そうして告げられたのは、一週間の期限を与えるということだった。たしかにエグザベは優秀な軍人で、出来ることなら失いたくない人材である。しかし、今のジオン軍にはたった一人のために裂ける時間も、人員も、資源も、十分にないのだ。シャリアにとっては何者にも代えがたい人間であっても、残念ながら軍にとってはそうではない。戦争の中では何人ものエース級が消え、また新たにそういう人間が台頭してくる。そういうものなのだ。エグザベが消えたからとて、ジオンが立ち行かなくなることはない。だから、この一週間という期限を与えられたことも、特例中の特例である。シャリアも、同席しているコモリもそれを理解していた。
    「お心遣い、感謝いたします」
    最期にと小さな情報端末が差し出される。エグザベが最後に乗艦していた例の艦の、出撃前後のデータが入っているとのことだった。データ解析は完了しておらず、半端な生データではあるが、待つよりも良いだろうと言い残し、ランバ・ラルが退出する。その後ろ姿を見送ったシャリアは「さて。忙しくなりますね」と、帰還後初めて笑みを浮かべた。


     ランバ・ラルから受け取ったデータを解析した結果、例の発光現象の前後に極めて小規模なゼクノヴァが発生していたことが分かった。しかし、分かったことはそこまでで、それ以上の成果が出ないまま、言い渡された期限の終わりを迎えた。どんよりとした雰囲気の中、シャリアが席を立つ。
    「アルテイシア様に呼ばれています。コモリ少尉は一旦帰宅してください。今日はこのまま一日休んでいただいて、明日の朝、また話をしましょう」
    「ッ中佐、……分かりました。戸締りはしておきます」
    それに頷いてシャリアは部屋を出た。朝日に目を細める。眩しい。エグザベのことが頭に浮かんで、シャリアはほんの少しの間立ち止まって目を伏せた。
     シャリアがアルテイシアの元を訪れると、相も変わらず、背筋を伸ばしたうつくしい人がそこで待っていた。
    「随分とやつれたわね」
    「そうでしょうか」
    「ええ。…部下のことね。聞いているわ」
    アルテイシアの視線が落ちる。シャリアは目の前に敷かれた、赤い絨毯を見ていた。
    「シャリア。貴方が彼を買っていることは知っている。その上で聞きます。…どうしてそこまで?」
    シャリアは何度か口を開いたり閉じたりした後、「…彼は、」と話し始めた。
    「私に『生きろ』と言いました。なら、彼も生きて私の為すことを見届けてもらわなければいけないのです」
    「…そう。それは、そうね」
    アルテイシアが一歩前へと進み出る。それから、シャリアをじっと見つめた。
    「それでも、私はあなたに言います。シャリア・ブル。あなたの務めを果たしなさい」
    話は以上です、そう言って切り上げたアルテイシアに何かを言うことも出来ず、シャリアはそのまま部屋を離れた。随分と離れ、一人になったところで握り締めた拳が壁を叩く。じんじんと痛む手が、己の愚行を嘲笑っているかのようだった。前髪をぐしゃ、と乱してシャリアは自身の力不足を悔いる。
    「……エグザべくん…!」
    シャリアの耳の奥で「はい、中佐」と応える声が響いていた。

     シャリアが部屋を出て、直ぐ。
    アルテイシアは控えていたランバ・ラルを呼び寄せた。
    「もし何か情報が入れば、シャリアに渡してちょうだい。あくまで何か分かれば、よ」
    それに肯定を示し、ランバ・ラルは一礼して部屋を出て行く。シャリアの目に光を宿した青年。話だけは聞いていたが、あそこまで入れ込んでいるとは知らなかった。随分と座り心地の悪い椅子に腰を下ろして、アルテイシアは大きく息を吐く。大事な人がいなくなっても、世界は回る。それは当たり前のことで、それから、とても辛いことだった。
    「ええ。――よく、知っているわ」

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