濡れた制服、読めない想い「以上、これで委員会を終わります。解散」
空席が次々と増え、教室から人が減っていく。
金丸は椅子の背に引っかけた鞄をひょいと肩にかけ、伸びをひとつ。
「は〜、終わった終わった……あれ、雨?」
窓の外はいつの間にか灰色に染まり、細かい雨が降り始めていた。
「うわ、マジかよ……傘持ってきてねぇし」
近くにいた後輩・結城将司は、そんな金丸を一瞥し、黙って自分の鞄を手渡した。
「……? なに?」
「これ、持っててください。すぐ戻ります」
「ちょ、おい、結城!? おまえどこ行くんだよ!」
返事もなく、将司は校舎の奥へ消えた。
3分も経たないうちに戻ってきた将司は、手に一本の傘を持っていた。
「置き傘してたの、思い出して」
「……言ってから行けよ、びっくりすんだろ」
「すみません。先輩、入ってください」
「あ、ああ。さんきゅ」
何食わぬ顔で差し出された傘の中に、金丸はバツが悪そうに入り込む。
ふたりで一本の傘に入るにはやや狭く、肩が少し触れ合う。
金丸の右半身は傘からはみ出ていて、制服が濡れていた。
「さんきゅ……おまえ、変なとこマメだな」
「いえ」
静かな返事のあと、しばらく無言で歩く。
雨音と、足元の水たまりを踏む音だけが響いていた。
不意に、将司が立ち止まる。
「結城? どうした?」
「……もう少しだけ、こっち寄ってもらっていいですか」
「え?」
「ちょっと……目のやり場に困るんで」
そう言って、将司は金丸の肩にタオルをかけた。
「っな、なんだよ」
「右半分、けっこう濡れてるんで。透けてます」
「は? 女じゃあるまいし、別にいいだろ」
「いや……先輩の日焼けした肌の色って、なんか……えろくないですか」
「……はぁ!?」
金丸が声を裏返らせるのも無理はない。
「……てめぇ」
金丸は無言で将司の顔を見つめる。
しかしその視線の先には、まったく悪びれない無表情がある。
「……ポーカーフェイスのくせに、裏でそんなこと考えてんのかよ」
「男は全員、多少はそういうとこあると思うんですけど」
「おまえ、むっつりスケベ通り越して、オープンスケベだろ」
顔が赤いのを悟られないように、金丸は小走りに傘の中から先に出る。
「急に何言い出すんだマジで……!」
後ろから将司が静かに追いつく気配。
ちらと横を見ると、彼の口元に、いつもよりわずかに柔らかい線が浮かんでいた。
笑ってる?……ように見えた。
(なんなんだよ、あいつ)
傘の下、距離は近いのに、将司の心の奥は読めない。
それが逆に、金丸の胸をざわつかせた。