ぬくもり自身のライバルであり、恋仲だったKが目の前にいる。震える手でヤツの手に触れれば、普段の仏頂面からは考えられないほど優しく、少しだけ寂しそうに微笑み、手を握りかえされた。
じわりと目頭が熱くなる。
またあえた、うれしい…ずっと逢いたかった。
こんな情けない面を見られたくなくて、
必死に涙をこらえる。
ヤツの手がオレの背中に触れ、
そのまま優しく引き寄せられた。
逞しい胸板にぽふりと顔が埋まる。
あたたかくて、優しいぬくもり…
このまま ずっとこうしていられたら───
それはだめだ
もどらなくては
─────どこへ?
「──────。」
ふと、何か聞こえた気がして耳を澄ます。
「徹郎さん」
「僕はここにいます」
「だから…戻ってきてください」
どこからか、オレを呼ぶ声が聞こえる。
優しくて愛おしい声。
なのにその声はとても悲しそうだから、
大丈夫だから、泣くなよと
慰めてやりたくなって…。
そうして思い出した。
これは、夢だ。
Kェは死んだんだ。
「そう、だった…な」
「わりぃな、Kェ
まだそっちには行けねぇ」
「…甘えん坊で寂しがり屋な奴と
厄介な約束しちまったもんでな。」
優しく握られた手をほどき、
かつて愛した、男に背を向ける。
大切な人の元へ戻るために。
「あばよ、Kェ!」
優しい声が聞こえる、光の先へと走り出す。
「…さらばだ、TETSU…
遠い未来に、また逢おう」
そんな別れの言葉が小さく聞こえた気がした。
「ん…」
目が覚めるとそこは病室だった。
身体中管に繋がれており、満足に動けない。
それでもと目線だけ動かせば真っ赤に泣き腫らした顔の譲介がオレの手を握っているのが目に入る。
「て、つ…ろうさん……ッ、徹郎さんっ…!!
よかった、僕…、っ…あなたの…死水、とるって…
約束、したのに…まだ、離れたくなくって…!!
だから、戻ってきて、くれて…っ、
ありがとう、ありがとうございますっ…!!」
顔をぐしゃぐしゃにして泣く譲介を
慰めてやりたくて、
オレはお前のおかげで戻ってこれたんだと
伝えてやりたくて、必死に声を出す。
「あ、い…して…る…、じょ、すけ…」
譲介に握られた手を精一杯握り返す。
それはきっと弱々しいけれど、
確かに伝わったはずだ。
目の前にいる愛する人は、
別離に怯え泣き腫らした顔だったけれど、
それでもオレがいつも好きだと伝えていた、
大輪に咲き誇る花のような
あたたかい笑顔を見せてくれたのだから。