月見で一服予想通り長引いた幹部会が終わり、疲れた身体に鞭打って漸く事務所に戻る。
机に残っている書類から目を背け、少し一息つこうと屋上に出てみると既に来ていた先客が丁度煙草に火をつけたところだった。
「お。お疲れさん」
「あぁ……お前も来てたのか」
「西田から逃げてきたわ。休憩や」
久しぶりに顔を見た先客は鮮やかな真紅のシャツと黒のスーツを纏い、普段の派手さはなりを潜めている。
商談帰りだろうその見慣れぬ格好に視線が奪われそうになるが、素知らぬ風を装い隣に並ぶ。律儀にこちらが咥えた煙草へ火をつけようとするのを目線で制した。
「気ぃ回すな。俺も休憩だ」
「そっちは相変わらずみたいやなぁ、眉間に皺寄ってんで」
「まぁな……面倒臭いことしか起こりゃしねぇ」
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