金の斧銀の斧 砂埃に目を覆って一歩後ずさる。緩慢な動きは、彼女が戸惑っている事をわかりやすく示していた。
天使の襲撃はいつものこと。ゲヘナの街が完全な姿でないのもまたいつものこと。
ただ、いくら周囲を見渡せど悪魔たちの頼もしい背中が見えないというのはソロモンの子孫にとって初めての経験だった。
サタンとシトリー、おまけに肩の上にいたピョンとまで爆発の混乱ではぐれてしまったらしい。狭い路地はすっかり煙に覆われて敵も味方もわからない、まさに五里霧中。
彼女はサタンがするように歯を食いしばった。ぎりりと不吉な音が鳴る。こういうとき、ただの人間である自分が心底恨めしい。
「サタン、どこにいる?ピョン、返事して……!」
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