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    hujino_05

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    hujino_05

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    七と五が食べてるだけの七五未満はなし

    たべるときは その日、七海は名前以外は何も知らぬ街にいた。出張である。さっさと任務を終えたはいいが、迎えの車がくるまで時間もある上、昼すぎという時間を一度確認してしまうと腹が減ってしかたがない。とにもかくにも腹を満たさなくては。七海は店を探しに街をうろつきだした。
     今日の任務はそこまで激しいものではなかった。スーツもほとんど汚れていないし、ジャケットとスラックスを軽くはたけば眉間の皺の深さとネクタイの派手な柄以外に気になることはないサラリーマンのできあがりである。ただし、生まれつきの鮮やかな金髪やサングラス越しの瞳の色などは目立つとも言え、時折うっとりとした視線や感嘆の吐息がもれることもあるが、七海はそういったものに一切気がついていなかった。なにせ今の七海とって重要なのは昼食である。はらがへっているのである。人々の視線を切るように大股で歩き、人々の吐息をものともせず視線をめぐらせていると、ふと、大通りに面したビルの一階に入っている店が目に入った。目立つ場所にあるわりに看板はちいさくひかえめで、外観はむき出しのコンクリートに細長い板が数枚はられている、シンプルでありながらこだわりが見えるものだ。大きな窓ガラスから見える店内はあたたかい明かりと立派な木目のテーブルが目立ち、奥に見えるカウンターを見るあたり、コーヒーがメインのカフェであることが分かる。カウンターの背面の壁にそなえつけられた板を渡しただけの棚にびっしりと置かれたコーヒー豆を眺め、ここにしよう、と七海は思った。
     飾り窓もなくドアノブすらもシンプルな木目のドアをあけると、店内はシックなジャズが流れていた。思わずほっと息をついてしまうほどあたたかく、カウンターからただよってくるコーヒーのこうばしさもあいまって、とてもおだやかな気持ちにさせてくれる。すぐさま店員から「お好きな席へどうぞ」と声がかかる。昼をすぎ、三時にはまだ早いころ合いである。客は一組しかおらず、席にもかなりよゆうがあった。七海は(その一組の女性客二人から熱い視線を向けられていることにも気がつかずに)窓際の席に座った。テーブルに元から置いてあるメニューを開くと、二ページにわたりコーヒーの種類が書かれている。一種類ごとに特徴や向いている飲み方の説明がしっかりとなされ、それを読んでいるだけでも良い時間がすごせそうだと思う。しかし七海はコーヒーもだが、食事も楽しみにしている。七海はとりあえずコーヒーのページと別れをつげ、フードメニューのページを開いた。
     まず、もっとも目立つページに載せられているのは、パフェ。背の高いグラスに上品かつだいだんに盛られた、下からスポンジ生地、ストロベリーソース、生クリーム、生の苺、ストロベリーソースのかかったバニラアイス、ミントに、ブラウニー。アイスの味はバニラ、チョコ、苺から選べることと、ブラウニーは他のチョコ菓子やウエハースに返ることができることが記載されていた。どちらかといえば昔ならではの喫茶店風の見た目に、あのやたらとうるさい先輩が好みそうなパフェだな、と一瞬考えたが、七海はすぐに隣のページに関心を移すことにした。
     そこにあったのは、オムライス。しっかりと火の通った卵は一枚の布のようにライスをつつみふくらんでいる。断面を見る限り、中はチキンライスだ。かけられているのはケチャップ。同じ皿に添えられたサラダはレタスとミニトマトだけのシンプルなもので、そこも含め、こちらも昔懐かしいタイプのメニューだということが分かる。
     その下に載っているナポリタンにも惹かれるものがあったが、七海はとりあえず、オムライスを頼むことにした。コーヒーは何にするか迷ったが、とりあえず店主のオススメがあるとのことなのでそれにする。気になれば二杯目を頼めばいい。今日はそこまで時間がおしている訳でもないし、補助監督から伝えられた迎えの時間までもかなり余裕がある。ランチの後にゆっくりコーヒーを楽しむ時間はあるだろう。
     店員に注文をし、なんとなしにガラスごしに外を眺める。そろそろ秋も終わり、冬に近づいている時期だ。ちらほらと薄手のコートを着ている姿が見え始めていた。大通りの並木は紅葉をすぎ、端からすこしずつ散り始めている。歩道のあちこちにたまった落ち葉を蹴りながら歩く子供を見つけ、ふとほほ笑んだ時だった。
     店のドアが開き、客が入ってきた。
    「いらっしゃ…」
     不自然にとぎれた店員の声に不思議に思い、視線を向ける。そこには、今しまったばかりのドアの前に、ドア枠に頭をぶつけるだろう長身の男が立っていた。しかも全身黒づくめで。目隠しをしていて。白い髪はさかだっていて。ついでに言うと、七海の方を見ていた。
    「あれぇ、七海じゃん」
     男は目隠しを首に降ろしながらそう元気よく言った。おそらく男の目隠しに驚いた店員が、今度は男の顔立ちの良さに驚いて小さな悲鳴を上げるのが聞こえる。一組だけいた女性客からも同じような悲鳴が上がるが、男はなにも気にせずずかずかと七海に近寄り、七海の許可も取らずに勝手に向かいの席に座る。白いまつげに覆われた青い瞳がにっこりと弧を描き、頬杖までついてわざとらしくこちらを見上げてくる男に、七海は盛大なため息をついた。
    「……五条さん。何故ここに」
    「お、さてはここがパフェで有名なカフェとは知らずに入ったクチ? もったいない! お前もパフェ食えよ!」
    「いりません私は食事とコーヒーを楽しみますので五条さんはどうか他の席でご自分だけパフェを楽しんでください」
    「つれないな~、こんな偶然めったにないっしょ? 一緒に食べようよ? ねぇ」
    「食べません私はオムライスを頂きますので五条はさんはどうか他の席でご自分だけパフェを楽しんでください。ああいいえ、私が他の席に移りますのでどうか五条さんはこちらの席で」
    「奢ってあげるから!」
     五条のその言葉に七海は立ち上がろうとした体を止めた。その隙に店員から水を受け取った五条は、「二種類食べたいんだけど食べ切れるか分からないからさぁ」と遠回しに「食べ切れなかったら食べて」とねだってくる。貴方は私の子供かなにかですか? 七海は一瞬そう言いそうになって、やめた。そもそも五条がパフェ二つぐらい食べ切れないわけがないのだ。五条は単純に、七海をいじりながらパフェを食べたいか、七海としゃべりながらパフェを食べたいだけなのだろう。そのふたつに大した差はないが。七海はため息をついた。深く深く、海底よりも深いようなため息を。そして椅子に座り直すと、店員を呼ぶ。
    「どのパフェを頼むんですか」
    「えっと~、苺アイスと、チョコレートアイス!」
    「はいでは苺アイスのパフェとチョコレートアイスのパフェをひとずつつ。それとナポリタンとハンバーグとカレーをお願いします。ああ、パフェはすぐに持ってきてくださって大丈夫です」
    「よく食うね、オマエ…」
     七海は五条にちょっと引いた声を出されたことに納得いかなかった。金を出してもらえるというなら思う存分食おうと思っただけである。これでも厚切りトーストを頼まなかっただけ多少の遠慮はしたというのに。七海はじっとりと五条を睨んだが、五条はさっさと切り替えたようで、この店のパフェがどのように有名で人気なのかを語り始めたため、七海はそれを聞き流した。

     最初に、オムライスとコーヒーが運ばれてきた。卵は分厚く、表面はつるつると美しく焼きムラもない美しい金色をしている。その卵にみごとにくるまれたオレンジ色のライスと、細かく刻まれた鶏肉にしみたケチャップ味や、玉ねぎのしゃきしゃきとした歯ごたえを考えると、七海はしみじみと腹が減ってきた。いただきます、と手を合わせてつぶやくと、向かいで五条が「はーい」と言うのが聞こえた。おおぶりのスプーンを手に、まずはケチャップのかかっていない端の方を食べ始める。口にいれると、まず卵のほんのりとした甘さが広がる。そのすぐあとに、チキンライスの酸味。噛めば噛むほど鶏肉の油やたまねぎの甘さも加わり、口の中が懐かしいオムライスの味にしあがっていく。食べ進めていくと、しだいにケチャップのかかった場所にさしかかっていく。それまで口の中に広がっていた味を、ケチャップがまるごとくるみ、さらにまとめていくのを七海は感じた。
     卵やチキンライスの風味を消すほど強くはない、自家製だろう絶妙な甘みと塩味のケチャップをしみじみ味わっていると、ナポリタンとカレーが運ばれてきた。オレンジ色が鮮やかなナポリタンに薄切りのウインナーが入っているのを目視し、七海はいちだんと嬉しくなる。玉ねぎは瑞々しく、ピーマンも鮮やかな色をのこしており、火が通りすぎていないことがわかる。カレーはひときわ大きく深い皿にこんもりと盛られたツヤの光る白米と、すこし黒っぽいルーの組み合わせだ。具は小さめのものが大量に入っている。じゃがいもや人参だろうものはルーの色がしみこみ、どれが何なのかわからないほど。こちらはくたくたに煮込まれているのがわかり、また、七海は嬉しくなった。
     店員が「ハンバーグは今焼いておりますので、少々お待ちください」と伝えながら、五条のパフェをテーブルに置く。想像よりも大きなパフェが二つ並んでいる光景に思わず二度見をした七海の前で、五条がひときわ高い声で喜びを口にする。七海はそれが「キャー」なのか「ワー」なのか聞き取れなかったが、とりあえず女子高生のような声を上げるな、とは思った。
    「いただきます」
     笑顔のまま行儀よく両手を合わせた五条は、遠慮なくパフェにスプーンをつきたてた。ブラウニーと苺アイスをまとめてすくい上げ、大きな一口で迎え入れる。五条の目がきゅうと強くつむられた後、ゆるゆると眦から力が抜け、すこしずつ白いまつげが開いていくのを、七海は黙って眺めていた。そのまつげの向こうに、青空よりも澄んで、海よりもうるんだ瞳があることを、その目元が、冷たくて甘いもので幸せにゆるんでいくことを、うっすらと頬に赤みがさして整った顔がいちだんと甘くなることを、知っているからだ。

     そして、それを見るのがどうしようもないほど好きであることも、自覚している。
     だいぶ前から。昔から。二人の輪郭が幼く、無力感を知らず、子供のような笑い方をしていた時から。
     ずっと。
     叶うことがなくてもいいと、半ば諦めながらも。
     まだ。
     好きなのだ。

    「お、七海、ハンバーグ来たよ」
     五条ののんきな声が聞こえたところで七海は一度ゆっくりと瞬きをし、それからは食事に集中することにした。目の前にできたてのあたたかい食事があるというのに、他のことに気をとられるのは失礼というものである。少なくとも七海はそう思っている。
     七海はあらためて、オムライスとナポリタンとカレーと、ちょうど運ばれてきたハンバーグに向き直り。
     そしてきれいに完食し、パフェ二つを食べ切った五条に再び「食うね…」とつぶやかれた。




     そう。七海は目の前の食べ物に集中していた。スプーンやフォークや箸、皿に乗った食べ物ばかりを見ている。いつもそうする。例外は話しかけられた時と仕事の連絡があった時、そして五条が食事をしているのを眺める時だけだ。
     だから知らないのだ。
     五条が、どれだけ豪華なパフェを食べる時よりも。どれだけつめたいアイスを食べる時よりも。どれだけ熟した果物を食べる時よりも。どれだけ珍しい菓子を食べる時よりも。
     食べている七海を見る時の方が。
     あまったるい顔をしていることに。
     いつも、気がつかない。
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    DOODLE七と五が食べてるだけの七五未満はなし
    たべるときは その日、七海は名前以外は何も知らぬ街にいた。出張である。さっさと任務を終えたはいいが、迎えの車がくるまで時間もある上、昼すぎという時間を一度確認してしまうと腹が減ってしかたがない。とにもかくにも腹を満たさなくては。七海は店を探しに街をうろつきだした。
     今日の任務はそこまで激しいものではなかった。スーツもほとんど汚れていないし、ジャケットとスラックスを軽くはたけば眉間の皺の深さとネクタイの派手な柄以外に気になることはないサラリーマンのできあがりである。ただし、生まれつきの鮮やかな金髪やサングラス越しの瞳の色などは目立つとも言え、時折うっとりとした視線や感嘆の吐息がもれることもあるが、七海はそういったものに一切気がついていなかった。なにせ今の七海とって重要なのは昼食である。はらがへっているのである。人々の視線を切るように大股で歩き、人々の吐息をものともせず視線をめぐらせていると、ふと、大通りに面したビルの一階に入っている店が目に入った。目立つ場所にあるわりに看板はちいさくひかえめで、外観はむき出しのコンクリートに細長い板が数枚はられている、シンプルでありながらこだわりが見えるものだ。大きな窓ガラスから見える店内はあたたかい明かりと立派な木目のテーブルが目立ち、奥に見えるカウンターを見るあたり、コーヒーがメインのカフェであることが分かる。カウンターの背面の壁にそなえつけられた板を渡しただけの棚にびっしりと置かれたコーヒー豆を眺め、ここにしよう、と七海は思った。
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    hujino_05

    DONE前載せたものの一応完成版/猫に狂う人々と戸惑う五と猫/五の最強感がまったくない
    ノワール ソレにいちばん最初に気がついたのは虎杖悠仁であった。彼のズバぬけた身体能力のひとつである動体視力は、木々や草むらの間を走りぬけるモフモフしたナニカを捉えたのだ。シルエットや尾の長さかたちからして、おそらく猫か、ばあいによってはタヌキではないかと思われた。しかし警戒心が強いのか虎杖以外の視界にはかすりもしないモフモフは、ながいこと、虎杖の気のせいか見間違いということで片づけられていた。なにせ此処は呪術高専。結界も貼られている上、おどろおどろしい呪具も呪物も呪いそのものも山ほどある空間で、基本的に野生動物は寄り付かないらしいのだ。野生動物は呪力を感じ取り逃げるものらしい、と言ったのは誰だったか、虎杖は記憶を探りながらも「でもやっぱ気のせいじゃないと思うんだよなぁ」とくだをまいては、釘崎と伏黒に「疲れてんのよモフモフと癒しが足りないんでしょ。ホラ、脱兎だしてやりなさいよ」「そういう用途じゃないんだが…」と言われながら脱兎を出してもらったりしていた。ちいさくて目がくりくりしていて耳の長いモフモフがかわいいので、虎杖はわりとすぐに自分しか見かけないモフモフのことを忘れたが、そういう時に限ってすぐに視界の端にモフモフが入り込んでくるので「やっぱ気のせいじゃない!」となるものだから、この話は結末を迎えず永遠同じところをぐるぐると回っていた。
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    hujino_05

    DOODLEコンビニ店員伏×リーマン五(未満)小話
     伏黒恵はコンビニでバイトをしている。
     理由は一人暮らしをしているアパートから近かったからである。それ以外の理由などない。伏黒は愛嬌があるタイプではないが、(昔はヤンチャもしたが)どちらかと言えば真面目な方である。遅刻もせずにきっちり働き、品出しを任せれば美しく棚が整える。レジではすこし不愛想に見える時もあるが、稀に浮かべるほほえみが一部の客にウケて人気にすらなっているし、たいていの客も伏黒の顔に笑顔が浮かんでいないことよりも、手際がよく礼儀正しいところを評価した。そうやって、伏黒はそのコンビニに、好意的に受け入れられていった。
     その日の伏黒は、先輩の代わりとして初めて夜勤に入っていた。日付が変わった直後のそのコンビニには、客はめったにこない。品出しや掃除、賞味期限のチェックも終わり、発注に関してももう一人のバイトが率先して行ってくれたおかげで、すっかり仕事は終わっていた。ホワイト思考な店長のおかげでワンオペは無く、必ず二人はいるのがこの店舗の良いところではあるが、今に限って言えば「良い」と言い切れないところがあった。つまりは暇だった。伏黒恵は暇をしているのである。暇すぎて、もうひとりのバイトとの会話も早々に下火になり、互いに黙っているのも気まずくなり、ふらふらと用もなくレジに立ちに出て来てしまったぐらいには暇だった。バックヤードでは上着をきていたが、空調の効いた店内ではすこし暑い。上着をバックヤードの入り口脇に畳んで置き、意味もなく店内を眺める。そんな時だった。入口に人影が見え、入店のメロディが聞こえてきたのは。
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    hujino_05

    PROGRESS※書き途中なので急に終わります/猫に狂う人々と戸惑う五と猫/五の最強感がまったくない
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