「結婚してください」
夕暮れの教室に響いた、一声。
机を隔てて向かい合った男子に告白される。側から見れば恐らくロマンチックな場面なのだろうが、私はあまり喜べない。むしろ喜んではいけない状況だ。
(……何故なら)
「……わ、私と君は教師と生徒だからダメだと、何度言ったら分かるんだ!?」
そう。目の前に居る男子は私の教え子、宮本伊織だ。剣道ではインターハイ常連であり定期考査も常にトップを維持する、文武両道を体現したような生徒。芯の通った意見を持ち周りに流されることもなく、教師陣からも絶大な信頼を向けられている。まさに優等生と呼ばれる生徒だ。
そして背が高い。顔立ちも整っている。たしか裏には多数の女子生徒と少数の男子生徒によって構成されるファンクラブがあったような。
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