【enst】(仮) 鳥の囀りに誘われて青白い瞼がふるりと震えた。細く長い睫毛のあわいから、暁光に先駆けて赤く烟る瞳が徐々に現れる。なにか哀しい夢でも見たのだろうか。薄らと開いた眦からひと粒の涙が滑り落ちていくのを感じながら、彼は窓に視線を向けた。カーテンの輪郭こそ暗がりのなかで微かに浮かび上がっているものの、日が昇るにはあと一時間はかかるだろう。朝と呼ぶにはまだ早い。
朔間零は根っからの夜型人間である。
いつかのインタビューでの「日が暮れてからが我輩のフィーバータイムじゃ♪」という発言通り、体質上とにかく太陽に弱く、可能な日にはいつまでもダラダラと寝床に潜り込んでいた。三つ子の魂百までとはよく言ったもので、それは彼の長年の習性であったけれども、近ごろはいくら夜更かししても自然と目覚めが早くなり、いまやスマートフォンのアラーム機能はすっかり無用となっていた。
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