海に沈む彗星 狡噛は出島のマーケットでなんでも買ってくる。それは彼の趣味である古書から始まり、珍しい皿であったり(大概が貧しさ所以に金持ちが手放した品だった)、持ち主が死んでしまった小さな祈りの像であったりしたが、今回は古びたボードゲームだった。見慣れないそれに俺が一体何だと興味を惹かれていると、狡噛は「バックギャモンだよ」とどこかニヒリスティックに休日の昼間から笑った。
赤と黒の駒がある、サイコロとダブリングキューブ、ダイスキャップがついた四角いボード。それが世界最古にして、今も最も難しいと言われるゲームらしい。彼は将棋や囲碁、チェスなどにも親しんでいたから、嬉々として披露されても大した驚きはなかった。ただ、それに自分がつき合わされるのだとしたら、どうか御免願いたかったが。
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