真っ白な 入道雲。##26
「お前球はえぇんだよ!」
「錦は反射神経がいいから、いい勝負じゃねえか」
今日どれだけ三振取られたか覚えてねぇのか!この鳥頭!
ぷかりと縁側でタバコをふかしていたら、わははと笑い合う男二人の声。声変わり一歩手前なのだろうか、初めて会った時よりいくぶん声が低くなっているような気がする。
それでも、〝あの時〟こ声は愛も変わらずいけない事をしていると思わずにはいられないほどいい声で鳴く。自慰行為を教えたのはいつだっただろう。誰も居ない畳の部屋で。扇風機も掛けず行われた気がする。確かに、今日みたいに大きな入道雲が出ていたはずだ。
晴天の空に浮かぶ夏の雲。真っ白な雲の下自分はなんて事を考えているのだろうかと、なんとなしに氷が小さくなってしまった麦茶に視線を落とす。
「あ、真島のにいさん」
「!!うっす!今日もオツトメっすか?!」
門を潜り縁側が見える位置まで来てぴたりと二人が足を止めた。自分に気付いたのは一馬が先だったと思う。
錦山と言ういかにもチャラそうな男は悪い男に憧れているのだろうか、オツトメ。と言う言葉を使ったのは自分がどこかのヤクザの下っ端だと理解しているからなのだろう。
ビビりながらもきちんと頭を下げてくるあたり外見よりもしっかりした、上下関係を理解している奴なんやろうなあとなんとなしに思う。
「野球部か?」
「あ、う、うん、二人、俺がピッチャーで」
「へぇ、やるやんか、かっこええなあ」
「そんな、先輩が、肩…痛めたから…っ」
先ほど友人と楽しげに笑っていた時の声とはあからさまに違う声色。嘘の下手な子供だ。自分と〝あんなこと〟をしている事。それを知らない友人。聞かれていないのだから嘘を付いている事にはならないのに、何故か後ろめたい気持ちなのだろう。
それと同時に、背徳感で、心がざわざわと揺れるのだろう。
「こいつ球はぇえのなんのって!先輩より、強いっすよ!」
「へぇ?ほなお前はかっ飛ばせホームランっちゅうやつやな」
「!そっすね!頑張ります!」
自分以外と話しをしているのが気になるのか。言葉が飛ぶたびそれを目線で追いかけている。
嫉妬をしているのだろうか、と思うとどろどろと腹の奥でいけない塊が溶けはじめてしまうのを感じた。何か言いたげに目線が落とされる。健康的に焼けた肌に伝う汗がきらりと光る。その、汚れを知らないと思える爽やかさに、またどろりと何かが溶ける。
「一馬、この間言うてたやつ、あの部屋に置いてあるから取りにこいな」
「え」
約束なんてしていない。
何も言ってなんていない。けれど、あの部屋。あの、扇風機すら回っていない、誰も居ない。畳の部屋。
目を見開き、さっと耳を赤く染めた。それに気付いているのは、彼を正面に見る自分だけだろう。
大きな入道雲の白さでは
若い欲望と好奇心
少しの嫉妬と溶けだした悪戯心、それを消せはしなかったらしい。