2年前ss
これは第六天魔王軍へ所属した後に数年が経ったころの話。
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その日は、蘭丸先輩から側仕えではなく上がってきた報告をまとめて整理するように言われていた。
しかし元々は側仕えなどではなく戦場で敵の首をとる方が自分ではしっくりときていたので情報の整理なんて本当に本音を言うなら「つまらなくてやりたくない」。
そんな折に秀吉くん達が出陣するという連絡が入った。キリも良いし息抜きも兼ねて見送ろうと門へ向かうとなにやらと様子がおかしい?
無銘(秀吉くん達の兵の装備、派手だし重そう……そういう作戦なのかな??)
第六天魔王軍に召し上げられるまで 突然変異種を狩って生計を立てていた己、戦の経験はないためとやかく言うのはお門違いだと思うががとても珍妙に映った。
官兵衛「お前……」
無銘「お疲れ様です官兵衛くん」
声を掛けてきたのは秀吉君お抱えの参謀の官兵衛君だ、どうやら秀吉君達よりも先に立って状況を俯瞰するつもりのようだ。
無銘「秀吉くんが出陣する頃合かと思ってお見送りに来たのですが、官兵衛くんの方が早いんですね」
官兵衛「あぁ、通信でも状況は随時共有はしているが何分とぺーぺーなもので……というか『くん』付けはやめろ。どこかのクソ親父を思い出して鳥肌が立つ」
無銘「呼び捨ては流石に…『さん』にしましょうか?それとも『様』がいいでしょうか?」
官兵衛「隠れ目付に揶揄われるくらいなら変えなくていい」
隠れ目付、この単語に該当するのは一人だけだ。勝家様の元で新人教育をしていた時に自分も大変に良くしてもらった。そして目の前の官兵衛くんはその隠れ目付の直弟子(隠れ目付的に言えば愛弟子)である。
無銘「分かりました……と、そうだ。今回は皆さん重装備ですね?」
官兵衛「……はぁぁあああ」
疑問を解消しようとした結果が重々しい溜息。これは官兵衛くんの策ではないのだろう。官兵衛くんは苦々しい顔で零した。
官兵衛「これは、ボスの案だ……」
官兵衛くんではなく秀吉くんの案……なるほど、破天荒な秀吉くんが提案者ならば私の考え及ばぬ策略があるのかもしれないと「はへぇ」と声をこぼす。しかし官兵衛くんは呆れたようにイラついたように眉をつり上げる。「これだから箱入りは……」と聞こえたような気もしたがまぁ戦前で神経質になっているのだろうと笑んで返す。
秀吉「お~ぅ、何話し込んでんだよカンベー?」
清正「ふァ……おー?側仕え買収でもして取り入ろうってか?」
官兵衛「お前ら……」
無銘「……」
声の聞こえた方へと振り返る、見送りに来た張本人の声だからだ。しかし──────、
私は思わず口を開けてポカーンとしてしまったし官兵衛くんは眉間を押さえた。しかし、うん。分かる。何せ秀吉くんはお酒の匂いが微かにするし清正くんは見るからに眠そう…寝起きと言われても信じられる様子なのだ。
無銘「えぇと……おふたりとも、今からご出陣……ですよね?」
どもるままに官兵衛くんを見上げた。そこには……最早開き直る官兵衛くんがいた。親指ど二人を指しながら
官兵衛「今からご出陣なんだよ、コレで」
秀吉「う"ぅ...ッたまいてぇ」
清正「はー……寝酒とか言ってバカスカ飲むからだろアニキ」
秀吉「うっせぇよ、景気付けだよ景気付け!この俺様が出るんだ、そら前夜からパーーーっとド派手にやってやらねぇと俺じゃねぇ!!つかキヨだって眠そうだろうが!」
無銘「ぱーっと……ド派手……」
成程、作戦かと思ったけど兵の重装備は秀吉くんの趣味趣向らしい。作戦とかでは全然なかったようだ。
しかしそうなるとこの重そうな装備で満足に動けるのかと疑問が募る。
無銘「もし、失礼ですが籠手を拝借しても?」
「構わねぇが...重いぞ」
兵の一人から装備のひとつを借りてみると……なかなかに重い。なんなら投擲した方が有用なのではと思うほどに。
無銘「これは…」
「派手なだけだし正直動きにくいったら……」
無銘「デスヨネ……ありがとうございました」
嫌々そうに受け取って再度装備を整える兵になんとも言えない気持ちになる。車両へと乗り込んでいくのを見送ると秀吉くんが声を掛けて来る。
秀吉「ンで?側仕えちゃんはなんの用だっけ??」
無銘「秀吉くん達が出陣するとの事でしたのでお見送りにと思って」
清正「アニキに恩売っても微妙じゃね?」
無銘「『勝政』さんから困ったら頼っちゃって、と伺っていますから」
秀吉「ははッまぁ兄ィに頼まれちゃ面倒見てやらねぇとな!俺らは兄ィに面倒見てもらったし」
無銘「あの、出陣前で恐縮なのですが……」
秀吉「あん?」
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舞う砂埃に、風に乗るは硝煙と微かな血の匂い──────
そう、ここはまごうことなき戦場だ!
無銘「〜っ!!現場だぁ!!!!」
場違いにも爛々と瞳を輝かせる姿を見て「脳筋か??」「勝家の爺さんに指導されたならありえる」等々聞こえてくるが胸が高鳴って仕方がない!
無銘「何をしましょうか!前線にも撹乱にも対応可能なのでなんでも…」
官兵衛「待てだ!…ったくいきなり『ついて行かせてください』と着いてきてきゃんきゃんはしゃぐな」
清正「やる気があんならほら、俺の代わりに一番手を」
官兵衛「キヨ…」
ジトリと清正くんを睨む官兵衛くんに「冗談、面目立たないからなぁ」と肩をすくめる。確かに秀吉くんや重鎮の二人ならともかく側仕えが斬り込むのは些かどころで無く絵面が悪い。しかし二人と反して秀吉くんはしたり顔だ。
秀吉「っハハ!やる気があんのは結構!結構!」
無銘「でも、今更ですが立つ瀬が…」
秀吉「あん?遠慮なんてしてたらゴッソリもってかれんぜ?着いてきた時の威勢はどうしたよ」
無銘「それはそうなんですが」
秀吉「はーん……ならこの秀吉様が一肌脱いでやらぁよ」
そう言って自分の胸をドンと叩いてみせる。一肌脱ぐとは有難いが、一体何をと首を傾げた私を手招いて肩に腕を回してくる。ぐぐっと体重を掛けてくるがこの程度は問題ない。こちらを僅かに見下ろす翡翠が鈍く輝く。そして───────
◆
秀吉「おらぁッ!!」
ザシュッと質量のあるものを断つ音が鼓膜に届く。今更と増える血臭など気にもならない。脚に力を込める、ズンッと踏み込み出して秀吉くんが斬り終えた瞬間に次の敵を私が斬る。
相手は秀吉くんしか見ていなかったのか、その後ろから飛び出してきた私に驚いた顔をするのが見えた、刀を握り直すのが見えるが私が斬るほうが早い。
無銘「ふッ!」
飛び込んだ低い体勢からの下からの斬りあげ。その軌道は刃が入った内腿から反対の脇へ抜ける、痛みによろける所へもう一歩を踏み出して今度は刃を振り下ろす。
突然変異種……獣とは違って毛皮のない分、処理はしやすいが血肉がついたままの刀身は斬れ味が落ちる。直ぐに刃を拭い次に備える。
秀吉「たっはw容赦ないねぇ、側仕えちゃん?」
無銘「元から私は前線志願です」
秀吉くんの提案はこうだった。『俺の後ろに続け、隙があれば飛び出して斬れ』。秀吉くんは第六天魔王軍 幹部、その首の価値は高い。そんな秀吉くんが前線を行くとなれば敵の目を引くのも道理だ、それを隠れ蓑に秀吉くんが見せた隙に誘われた敵を斬る共同作業。
普段ならば他人を気遣って戦場に立つなんて面倒はしない秀吉くんだが、なんというか。
無銘「秀吉くんは獣と考えた方が合わせやすい」
秀吉「貶してんのか?!」
無銘「ところでなんですが秀吉くん」
秀吉「あ"?」
無銘「部隊と距離が少しでています、これ以上離れると蜂の巣です私達」
秀吉「はぁ?んなわけ……」
秀吉くんの視線が後ろに向くので私は彼を背に前方を見据える。一瞬と秀吉くんの動きが止まったのが気配でわかった、うん、やっぱり秀吉くんは気配で合わせるのが一番的確に合わせられる。
秀吉「はぁ?!アイツら 道草でも食ってんのか?!」
そうさけぶ秀吉くんの瞳には少し間を開けて
無銘「装備に重量がある分機動力が落ちています、それに速度を上げて進軍するとこちらの兵が雪崩る可能性も……」
秀吉「ッくそ、誰だこんっなかったりぃ装備つけさしたやつはぁ!!」
「ボスだろーが!!!」と怒声が飛んできた。もちろんこれは軍師の官兵衛くんのだ。軍師として指揮を取りつつもこちらへ迎えを向けてくれる彼に感謝が止まらない。
官兵衛「予定よりも進軍が遅い、一旦引くぞボス」
秀吉「はぁ?!んなこと出来るわけねぇだろ!!そのおツムは飾りか?!」
官兵衛「このクソザルッ……考えた結果が一旦引いて体勢を立て直す事なんだよ!!」