2d3dコンドームの話秋なんかあったか?くらいの勢いでいきなり夏が終わり、冬がきた。衣替えしな、とは頭にあったが面倒だ。衣替えを後回しにして、部屋の暖房をつけて誤魔化し誤魔化し過ごしていた。
シャワー浴びてくる、と部屋から出て行った黒い猫は、10分もしないうちに浴室から出てきた。どたどた足音が聞こえて、どうせ髪も乾かさず来るんだろうなぁと思ってたら、案の定、髪から水を滴らせながら部屋に戻ってきた。
パンツは履いてきた。偉いと思う。
「さむい!!なぁ長袖は?まだ出してへんの」
でかい声で文句を言いながら、衣類ケースを引っ掻き回している。
「…あとで片付けてな~」
俺はゲーミングチェアに深く深く沈みこんで、その日のデイリーを消化していた。
機嫌が良ければクローゼットの奥のダンボールから冬服を出してやるくらいはした。しかし今、あいつのせいで廊下がびしょ濡れになったこと、そもそも夏の衣替えは俺一人でやったこと、冬の衣替えまで俺に丸投げしていることにケチをつけたくなって、でもそれは我慢して、黙っていた。
猫はしばらくあちこちに服を投げ散らかして、衣類ケースに無いとわかると、渋々、という顔をして、いつものスウェットに半袖のシャツを着た。
さむいさむい、独り言みたいに呟いて、また洗面所に消えていく。一応肌や髪のケアには気を遣っている、偉いと思う。
俺はデイリー消化を中断してポーズ画面を開き、奴が散らかした衣類を片し、タオルで廊下を拭いた。うっかり水溜まりを踏んで足が濡れて、かなり萎えた。
俺がシャワーを浴びて戻ってくると、猫は布団で丸くなっていた。スマホをぼーっと見つめて、たまに声を上げて笑っている。tiktokか?
「もう寝る?」
俺が声をかけると、少しの間をおいて、どっちでもいい、と返ってきた。
「ふーん。」
ここで一言きっぱり、寝る、と返ってきたら、大人しく寝かせてやろうと思ったが、正直俺は変に発情していたので、何も言わずにスイッチを押して、部屋の明かりを落とした。
猫はスマホの明かりを頼りにベッドランプを付ける。
こいつは真っ暗が苦手らしい。
べつに暗くても明るくても俺は構わないので、そのまま布団に潜り込んだ。
猫の体はぽかぽかにあたたかくなっていてちょうどいい。背中から抱きついて、足を絡めて暖を取る。
「つめてっ!おい俺の体温だぞカス!」
「口悪ぅ~」
文句を軽く流して、両手を腰周りから、少し上にずらす。文句は聞こえなかったので、そのままするすると上へ向かって、軽く胸を揉んでみた。
猫は俺の手の冷たさに背中を丸めて、両手で俺の腕を掴んでいたけど、力はほとんど入ってない。振りほどく気はないらしい。
「ええ~、その気だった?誘ってよ」
「うるさい、お前が変なとこ触るから」
小さい声で返事があった。
流されやすいんよなぁ、心配になる。ふいに湧いた不安が、ちっちゃい炎みたいにちらちら揺れた。
首の後ろに歯を立てて、そのまま何度も噛み付いた。文句も言わず、たまに痛みに耐えて首をすくめる。それでも黙っているので、強めに口吸いして跡を付けておいた。
身体を起こして猫を見下ろすと、向こうもこちらを見あげた。耳をぺったりたたんで、ゆれたしっぽが俺の足に当たった。完全に受け身の体制になった猫を見てヨダレが出た。
舌なめずりして、唇にキスをする。
猫はすぐ唇を合わせて、もっと、とせがむように両腕を俺の首にまわした。自分から舌を差し出してくれたので、その舌を絡めとってたくさんたくさんキスをした。お互い息が上がって、暑くなってきて、布団を捲った。それでもまだ暑い。
完全にやる気になった俺は上に着ていたシャツを脱いで、ベッドの上に落ちたままだったコンドームの箱を手に取った。ひっくり返して、そこで初めて思い出した。
そういえば3日くらい前に使い切ったんだった。
「…しやんの?」
ベッドの上の黒猫は、俺に食べられるのを待っている。据え膳だがしかしセーフティセックスは大事だ。
「…ゴムないから、中止」
「はぁ!?買っとけよ!」
今までしおらしくしていた猫は、俺の首に回していた腕をするりと解いて、部屋のドアを指さした。
「…買ってこいよ」
拗ねたように口をとがらせて、そっぽを向く。
「一緒行こ?」
こんな寒い日に、なにがどうして、1人でコンドームを買いにパシられなければならないのか。
盛ってるのはお互い様だ。
寒い寒いと文句を言う猫に、冬用のジャケットを出してやって、2人して部屋を出た。
さっきまで火照っていた身体が一気に冷える。
「…やっぱやめない?」
黒猫からの提案に、俺はノータイムで首を横に振った。
「俺は絶対今日したい」
はっきり言って階段を1段、2段と降りていくと、少し後ろから、控えめな足音が追いかけてきた。
エントランスを出て、コンビニに向かう。
「そういえばさぁ」
「…何?」
「どんなのが好きとかある?」
俺が訊ねると、猫はしばらく考えて、
薄いのが好き、と答えた。
「へぇ」
一言だけ返すと、会話は途切れた。
振り返ると、顔を真っ赤にした猫が俯いたまま、黙って俺の後を追って歩いている。
早く暖かい部屋に戻って続きがしたいなと思った。