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    irsk0064

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    irsk0064

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    if世界の炎博
    孤高の傭兵炎と、その炎に拾われた病弱の少年博
    書きたいところだけ勢いでかきました

    ある日の宿屋の二人「お前に残された選択肢は2つだ、ここで死ぬか、生きて更に苦しむか、だ」
    霞む視界の先で黒い影が囁くようにそう話したのを、少年は辛うじて聞き取った。
    少しでも可能性があるのなら、賭けに出るしかない状況であるのならば、答えは明白だった。



    「建物の残骸に潰されて死にかけていた餓鬼が、こうなろうとは誰が予想できただろうな?」
    暫く滞在している宿の狭い部屋に帰ってくるなり、サルカズの傭兵は深いため息をついた。
    その顔には「目を離すといつもこうだ」という表情が全く隠されることもなく浮かんでいる。
    「え、エンカク…お帰り…ええと」
    対して細身の少年は、しまった、という焦りの表情をしているのが見て取れた。
    様々な本やチラシが散らかったベッドを自身の身体の影に隠そうとするが、長身のエンカクからすればそれは無駄な抵抗でしかない。
    なんなら床にまでそれらが散らかっているのだから、まさしく頭を隠してなんとやら、だ。
    宿屋の一階で買ってきた朝食のパンを抱えなおして、床に落ちたチラシを拾い上げてみれば、それはこの町の菓子店の商品広告だった。

    「…菓子?その辺の本もそういった関係だな?どこで買ってきた。」
    彼の気休めになるのならばと、本を買うための小遣いをエンカクはあらかじめ渡してある。
    いつもは源石病の学術書やら科学技術書やらを古書売りからかき集めてくるものだが、今日は菓子のチラシや菓子作りの本ばかりで不可解に思った。
    「えー、それはー…そのー…。」
    「ドクター。」

    目を泳がせながらなんとか誤魔化そうとする少年に対して、ぴしゃりと遮るようにエンカクは少年の名前を呼ぶ。
    いや、正確には「ドクター」というのは少年の愛称だ。
    色々小難しい要件を整理しつらつらと話すところから、エンカクがつけたあだ名であったのだが、何故だか少年が気に入り、そう名乗るまでに至ったのだ。

    その気に入った名前を呼ばれ、ばつが悪そうな顔をしたあと、ドクターは少し申し訳なさそうに話し出した。
    「その、たまにはお菓子を食べてみたいなぁ、と。」
    「ならばその辺で買ってくればいいだろう。」
    いま滞在している町は小さいながらも食材や物資は十分と言えるほどで、少し歩けば質素ではあるが菓子屋は存在している。
    わざわざ作るよりも買うほうが楽で、金銭面でも味覚面でも適しているのは子供でもわかることだった。
    「もちろんそのほうが適切だろうけど、一階のおばさんが色々教えてくれるっていうから、借りてきたんだ。誰かに教わっておけば今後何かに使えるかもしれないじゃないか。」
    確かにいつでも宿に宿泊できるわけではなく、傭兵という仕事柄から野宿する事もしばしばだ。
    そんな時は木の実など集めて小腹を満たすこともあるから、ドクターの言う事も一理ある。
    「…良いだろう。ともかく今はそれを片付けろ、朝食にする。」
    興味を失ったのか、エンカクはそれ以上追求することはなく、小さな机に買ってきたパンをおろす。
    それを見てドクターは、なんとか気づかれずにすんだ、とほっと胸をなでおろしつつも、片付けを始めた。

    さっさと朝食を胃袋に詰めると身支度を済ませたエンカクは、近隣に異常繁殖している感染獣の退治に出かけていった。
    少し遅れて食べ終わったドクターは数粒の錠剤を水で飲み流すと、一階へぱたぱたと降りていき、皿洗いのアルバイトを始める。
    今日こそは目標を達成するのだと、決意を胸にしたドクターの手さばきはいつも以上に良かったのだとか。



    正直に言うと、エンカクにはドクターが何かを隠しているのを薄々わかっていた。
    いくら小賢しいとは言えまだ子供、圧倒的に経験値が足りないのは仕方ないことではある。
    だが、これまで共に暮らしてきてわかっている事がある。
    ドクターが何を隠していようと、黙っていようと、それはエンカクにとって悪い出来事ではない、という事だ。

    大きな災害で炎に飲まれ、全ての建物が崩れ去った町にエンカクが訪れた、あの日。
    崩れた建物に何か使えるものはないかと物色していると、瓦礫の下敷きになっていたドクターをエンカクは見つけた。
    たかが子供、何の役にも立たない、息があるならばいっそこと頭を落として楽にしてやったほうがマシではないか、ともすら思っていた。
    しかし、焦点があっていないにも関わらず諦めようとしていない顔を見ている内に気が変わった。
    死か、苦痛の伴う生か。
    問いに対して「いきたい」と零した声。
    それに応えてしばらく面倒を見てやれば、少年はどうやら環境にも頭脳にも恵まれていたらしい。
    長年傭兵として生きてきたエンカクの予想を遥かに上回る作戦や戦略を打ち出してきた。
    一番最初は箱入りのお坊ちゃんが何を言っている、と侮っていたが、敵に囲まれ一網打尽にされるところを、五体満足で脱出できた事実を突き出されたら、認めるしかなかったのである。
    敵を騙すには味方から、という言葉を偉そうな顔で言った時には耳をつねってやったが。
    ただ身体が弱いのか、少しでも身体を冷やすとくしゃみをし始め、熱を出して寝込んでしまう点については、エンカクにとって誤算ではあった。
    傭兵として育てるには不十分すぎるし、一人で放っておくにもなんとも心細い。
    そうしていく内に活動エリアは限られてくるわ、請け負う仕事も絞られてくるわ、で頭を悩ませることも多くあった。
    しかしこれまでの孤独とは違い、何が起こるか予想外な点についてはとても愉快ではあった。
    今日は簡単な依頼にしては報酬も多い。
    もうすぐ次の町へ向かう資金も貯まる。
    長身のサルカズは嬉しそうに微笑みを浮かべたが、これから刈られる獣達にすれば、恐怖の笑みでしかなかった。



    「…。」
    「お、お帰り、エンカク」
    この光景、今朝も見たな、と仕事から帰還したエンカクは深いため息を飲み込んだ。
    ただ今回は本や紙が散らかっているのではなく、机が何やら大変なことになっているようだ。
    そして、それを隠そうとしているドクターも白い粉やらクリームやらであちこち汚れている。
    「えーと、まずは、そう、汗を流してきたらどうかな!疲れているだろう?」
    「そういうお前も粉だらけだが、一体、何があった。」
    指摘すれば、うぐっ、とドクターは言葉を詰まらせる。
    そして今度は潔く、隠していたものをエンカクの前に晒したのだった。
    「…これは。」
    「本当は完成させてから見せたかったのだけれど、どうにも慣れなくて。」
    机の中央に鎮座しているのは、菓子だ。
    茶色の少し固そうなスポンジに、白いクリームが上のほうにうっすらと乗っている。
    まだ制作過程の真っただ中ではあるが、それがケーキだということは菓子に興味がないエンカクにもわかった。
    「もっと豪華な大きなものを作りたかったけど流石に予算とか色々都合があって、ね。フルーツとか中にも挟みたかったけど何もないのは味気ないからせめてこの後に乗せようと…。」
    「何が目的だ?」
    ドクターが制作経緯を説明していたが、そういうことではない、とエンカクが遮る。
    ただドクターがケーキを作って食べたい、というだけでは隠す理由にはならない。
    他に理由があるはず、と考えてもみたが、エンカクには特に理由が思いつかなかったのだ。
    「えーと、まぁ普通は覚えていないか。今日は記念日なんだ。」
    「記念日?」
    一般的な記念日も、ドクターが暮らしていた地域の記念日も考えて見るが、今日にはどれも日が遠く、該当しない。
    思わず眉間に皺をよせると、気づいたドクターは可笑しそうに笑う。
    「そう、私が君に拾われた記念日だよ。」
    「…それは記念日とは言わないだろう。不可解な奴だな。」
    ええ~?とまた可笑しそうに笑いながら、ドクターはクリームをスポンジに塗りはじめ、ケーキの制作を再開する。
    エンカクはいまだに解せないという表情を浮かべながら、担いだままだった荷物と武器をベッド脇へ置き、服を解いていく。
    「私にとってはあの日は人生の分岐点だったんだ。叔父の医者になれっていうつまらないプレッシャーから抜け出して、君とのドキドキわくわくの旅が始まった日。」
    「普通は嘆くところだろうがな。」
    「…もちろん色々思う事もあるけれど、立ち止まってばかりはいられないし…。」
    あっ、というドクターの声に振り向けば、クリームをこぼしたらしく慌てている小さな背が見える。
    そう、普通ならば泣き崩れるか、絶望に心を閉ざすか、あるいは怒り狂うかだろうに、この少年は気持ちをいとも簡単に切り替え、今を楽しんでいるのだ。
    精神的に健やかであることはいいことではあるが、少しそら恐ろしいことでもある。

    そんな少年が作るケーキはさぞ歪だろうなと、思い、エンカクがラフな格好になってから覗き込んでみれば、やはり不格好であった。
    「かせ。」
    「あっ、自分でやるから…っ」
    「このままではクリームが溶ける。」
    小さな手に握られている食事用のナイフを取り上げ、ささっと直してやれば、感嘆の声が上がった。
    「うん、やっぱり君といるのは楽しいよ。だから過去ばかり見ていられないんだ。」
    へら、とドクターが笑う顔は年相応のそれで。
    ああ、こいつはまだ保護対象なのだと改めて感じたエンカクは、わしわしと小さな頭を大きな手のひらで撫でまわしたのだった。


    **その日の就寝時**

    「そういえば今日、販売を手伝っていたら変なお客さんがいて」
    「具体的には」
    「おじさんなんだけど、パンじゃなくて私の手をがっしり、こう握ってきてさ」
    「…。」
    「かわいいね~とか言われて、女の子と間違われていたのかなって」
    「そいつの特徴を教えろ、斬ってきてやる」
    「待って!?なんでそんな物騒なことになるの!?」
    「…もう少し容姿に自覚を持て」
    「…、え、なに、そういう意味なの、あれって」
    「…(ため息)」
    「そっかぁ…、…ん?今の流れだとエンカクも私の容姿好きだったりする?」
    「どこの流れをとってきた」
    「へー、じゃあ将来的には気に入ってもらえるかもしれない?」
    「はっ、寝言は寝て言え。」
    「私にとってはエンカクに気に入ってもらえるのは、とても光栄なことなんだけどな。」
    「…。」
    「まぁいいか、今から頑張ればいいことだし、うん。」
    「…、くだらないことはそのくらいにして早く寝ろ。」
    「はーい。」

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