些細なイタズラ心ふわりと浮上する感覚を覚え、ドクターはパチリと目を開いた。
見慣れた自室の天井が映ったことから、眠りについていたのだと理解する。
部屋の明るさからすると今の時間帯は日の出前だろうか。
時計を確認しようと、まだ稼働しきっていない身体でベッドから起き上がろうとした。
すると、腕になにか重いものが引っかかる。
ああそういえば、と横を見れば、珍しくまだ眠り続けているエンカクがいた。
昨夜は久しぶりにゆったりとした睦事だった。
そのためだろうか、普段と比べれば身体のきしみは大したことはなく、だるさもほとんど感じられない。
エンカクを起こさないようにころりと寝返りをうち、まじまじと彼の顔を覗き込む。
整った彼の顔は、どんな時でも美しく感じるものだなと関心する。
普段は鋭い瞳も今は閉ざされ、穏やかな表情を浮かべている。
更にきりりとした美しい眉も和らいでおり、心なしか幼い雰囲気を醸し出していた。
そんな顔を見つめていると、むくむくとイタズラ心が湧いてくる。
果たしてつついても起きないのだろうか、と。
ちょっとした気配にすら、すぐに目を覚ます彼を寝かしておいてやろうと良心が囁くが、抑えきれずにつん、と頬を人差し指でつつく。
「…、…。」
むずりと眉が動いたが、瞼が開かれる気配はない。
肌の弾力を楽しむように更につんつんとつつくが、それでも開かない。
こうなったら目を覚ますまでやってやろう。
たとえ怒られる可能性があろうとも。
普段はやれないイタズラを目の前に、ドクターは止めるという選択肢を投げ捨てた。
すっと指を滑らせ、固く閉じられた唇に触れる。
昨日の夜は大分しつこく口づけをされたんだよな、と思い出しながらふにふにと触るが、エンカクは起きる気配がない。
軽くつまんでも見るが、変化はなし。
次は耳に触れた。
サルカズ特有の尖った耳の縁をゆっくりと指でなぞる。
左の耳には源石が少し張り出しているが、そこには触れないようにそっと避ける。
人によっては源石を美しいと評価するものもいるが、個人的にはとても複雑な存在だ。
これ以上彼の身体を侵食しないでくれたらいいのにと、祈るような気持ちのまま、そっと耳に口付ける。
流石に息を吹きかけると起きてしまうだろうから、軽く触れるだけの口づけを何度も落とす。
が、変化なし。
つまんで軽く引っ張ってみるも、特に効果はなかった。
最初は面白がっていたが、ここまで起きないとつまらなくなってくるのは勝手だろうか。
ええい、と今度は鼻の頭にがぶりと甘噛みする。
歯を強く立てないように、何度も角度を変えて噛んでみるも動く気配がない。
実は起きているのでは?と再びのぞき込んでみるも、瞼は閉じたまま、呼吸もゆっくりと繰り返されているだけだった。
「…なんだよ、私のことを無視でもしているのか」
つんと唇を尖らせるも、返事はなかった。
だんだん腹がたってきて、今度は本気で起こそうとぐいっと唇に口付けた。
舌を入れようとぐいぐいと押し付けるも、エンカクが熟睡しているせいか、うまくいかない。
こうなったらこじ開けるしかない、と思い指を差し込もうとした。
とたんに、ばちりと橙の瞳が開き、目が合う。
「んむっ!?」
ねじ込もうとしていたドクターの舌は、大きく開かれたエンカクの口にあっけなく食われ、じゅるじゅると味わられてしまったのだった。
…………
「………君、いつから起きてたんだ」
「…頬に触れたあたりだ」
「最初からじゃないか!」