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    r103123

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    含ら

    ラッキースケベ「物を凍らせる符を……いや、それより空間の温度を一定に保つ効力……駄目だ。暑くて何も考えられない」
     夷陵老祖の住処である乱葬崗の伏魔洞には常に冷たくてじめじめとした空気が漂っているが、日差しが強く風も無い今日ばかりは耐え難い蒸し暑さに見舞われている。
     この洞窟の主である魏無羨はぐったりと岩肌に身を預け、最近理性を取り戻したばかりの温寧が用意してくれた桶の中に素足をつけていた。桶いっぱいに溜められた水は早くも温くなっていて、広い洞窟の中には暑さに参っている魏無羨の呻き声が反響している。
    「うー……暑い、暑過ぎる」
     だらしなく開いた袷を緩慢に動かし僅かな風を衣の中に送り込むが、汗で肌に張り付く髪を払い除ける気力はもう無い。日差しのある洞窟の外に出る気は勿論起きず、近くの紙に何かを書付ける事も出来ない。彼が育った雲夢も暑さの激しい土地であったが、かの地には美しく広大な湖があった。あぁ、蓮花塢に帰りたい……。

    「魏嬰」
    「藍湛……」
     清涼な空気を纏った藍忘機は、この暑さの中でも汗ひとつかかず薄暗い洞窟の中に凛とした姿で佇んでいた。何時からそこに居たのか、だらしなく岩肌に寄りかかったままの魏無羨を静かに見下ろしている。藍忘機が乱葬崗を訪れるのは初めてでは無く、温氏の誰かが気を利かせてここに通したのだろう。
     自分の住処に無断で入ってきた藍忘機を咎める事もなく、魏無羨は裾を捲り上げた素足で温い水を蹴り上げては地面に染みができる様をぼんやりと眺めていた。
    「こんなに暑いのにまた夜狩りか? お前は自分の家に篭ってるだけでここより涼しく過ごせるだろうに」
    「…………」
     藍忘機からの返事は無い。そんなのは長い付き合いの中で慣れっこだが、いつもは代わりに何人分でも話し続けるお喋りな口に今日はその元気が無かった。魏無羨が少し黙っただけで場に沈黙がおりる。
    「暑い……」
     空気が熱を帯びて不快なほど蒸していた。折角藍忘機が来てくれたのにここには蓮花塢のような湖も雲深不知処のような川も無かった。どちらかがあれば一緒に水浴びができただろう。たっぷり遊んだ後で、並んで座って切り分けた大きな西瓜を食べる。此奴はきっと匙を使おうとするだろうから、かぶりついて食べる方が美味いんだって教えてやって……。
     魏無羨は袷を揺らして風を作りながら白皙の美貌を見上げる。つれない態度はいただけないが、この整った顔は出会った頃から変わらず魏無羨のお気に入りだった。沢山悪い遊びを教えてやって、腹を抱えて思い切り笑うところが見てみたい。
    「どうしたんだ?」
     普段なら真っ直ぐに見返してくる薄い色の瞳が、此方を見ている筈なのに何故か視線が絡まない。魏無羨の顔よりももっと下、身体をジッと見ているかのようだ。
    「藍湛? ……お、わぁ!」
     微動だにしない男の顔の前で手を振ってやろうと腰を上げた魏無羨は、足を桶に浸していたのを暑さの余りすっかり忘れていた。
     桶がひっくり返って水が床に飛び散る。派手に体勢を崩した魏無羨に受身を取る余裕は無く、地面に身体を叩き付ける事を覚悟した。
    「助かったよ藍湛」
    「……うん」
     魏無羨が無様に転ぶ事はなかった。目の前に居た藍忘機が咄嗟に受け止めてくれたからだ。しかし彼も余程慌てたのか、魏無羨の下敷きになるようにして地面に腰をついていた。
     にんまりと笑った魏無羨は珍しいその姿をからかおうとして、藍忘機の顔を汗まみれの胸に押し付けているのに気付いた。小さくて淡い色をした乳暈は完全に唇の間に隠れている。慌てて身体を起こし、大きくはだけた胸を咄嗟に両手で隠した。
    「ごっ、ごめん藍湛! お前、人に触れるのは苦手だって昔言ってたのに」
    「平気だ」
     冷たく見えた白い肌が自分よりも熱を帯びていたのを反芻しながら、乙女のように袷を掻き合せる。柔らかな唇が乳首に触れる感覚を思い出すと何故か頬に熱が集まってきて、藍忘機の方を見られない。

    「……藍湛?」
     藍忘機との時間に流れる沈黙には慣れていた筈なのに急に我慢が出来なくなって、魏無羨は囁くような声で彼を呼んだ。それでもやはり返事は無く、そろりと目を向けた先で魏無羨は自分が藍忘機の腰に跨がっているのと、彼の整った口元が血で汚れているのに気が付いた。
    「おい、血が出てるじゃないか! 動くなよ。直ぐに温情を連れてきてやるからな!」
     暑さでだらけていた事も忘れ、魏無羨は伏魔洞を駆け抜けると畑仕事をしていた温情を引き摺るようにして大人しく横たわったままの藍忘機の元にすぐさま帰ってきた。
    「早く診てやってくれ、俺が下敷きにしてしまったせいで……傷口はどこだ? 素人にはそれすら見分けられない。なぁ、藍湛はどうなってる?」
     起き上がった藍忘機の顔を見て直ぐ、温情は落ち着きなく歩き回る魏無羨に向かって「巻き込まないで!」と鋭く叫ぶと怒った様子で洞窟の外へと戻って行ってしまった。
    「ちゃんと診てくれよ!」
    「魏嬰、もう大丈夫だ」
     藍忘機ほど修位の高い仙師が僅かな出血程度でどうにかなる事は無い。だが、清潔な布で顔を拭った後もずっと魏無羨は藍忘機を心配そうに見つめ続ける。
    「傷はもう塞がったのか? 藍湛が嫌じゃなければ山を下りるまで俺が肩を貸すよ」

     魏無羨との接触で体温が上がり過ぎた為に鼻粘膜から出血した……とは言えず、藍忘機は魏無羨の肩に腕を回しても自制出来るのか、その賢い脳で必死に考えを巡らせていた。
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