お人形さん「これも似合うんじゃないですか」
一人暮らしには広すぎるマンションのリビングに、大量の服飾品が並べられている。君島家付きの百貨店の外商が恭しく持ち込んだそれらは、どれも国内では入手困難なものばかりだ。
「俺の趣味じゃねえな」
「それでは、これもいただきます」
「人の話を聞けよ」
ここに君島を止める人間はいない。当然、外商は満面の笑みで次々とアイテムを提案してくる。次に着せられたのは、ギラギラのビジューが全面に刺繍されたシースルーのブラウス。袖口にはご丁寧にフリルまでついている。思わずうげ、と声が出た。
「これはお前が着るやつだろ」
「おや、アナタにぴったりだと思って持ってきてもらったのですが。ねえ」
同意を求められた外商は、赤べこのように頷く。バカバカしい。四面楚歌である俺は死んだ魚の目をして、着せ替え人形と化す。
「ほら、やっぱりよく似合う」
気持ち悪いほどに上機嫌の君島は、鏡越しに視線を合わせて微笑む。肩に置かれた手に力は入っていないのに、払いのけられない。
コイツの趣味で着飾った自分は、いつかフランスの雑貨屋で見かけた道化師のフィギュアのようだった。それでも、こんなオモチャを唯一の宝物みたいに扱う男の言うことを聞いてしまっている時点で、俺の負けだ。勿論、金は全てコイツが出すのだが、それもまたこの男の気分を良くさせる要素なのだと知っている。本来ならばWin-Winなのだろうが、俺がそう思うにはもっとセンスの良い服を持ってきてもらわなければ、話にならないのだ。
End.