魅惑のミルキープルーン「どれが良いと思います?」
「……なんだ、これ」
テーブルに並べられたのは、様々なブランドのリップアイテム。遠野が訝しげに外箱を摘み上げると、君島は開けて結構ですよ、と促した。
「広告モデルの仕事でね、私のパーソナルカラーに合わせたリップをセレクトしていただいたんです。三本あって、どれも少しずつ違うのですが……アナタならどれを選ぶのかと思って」
「パーソナルカラーって、これがか?お前、紫ってカンジじゃねーだろ」
パッケージを開けると、中身はいずれも紫を基調にしたカラーのものだった。その中からひとつ手に取り、黒い半透明のケースを眇めた遠野の瞳がきらりと光る。その輝きは、透けて見えるリキッドに混じったパープルのラメによく似ていた。
「おや、そう思いますか……実は私も提案されたとき、意外だったんですよね。でも、私ならどれでも似合ってしまう自信はありますけど」
「フッ、そういうとこ好き。……じゃ、ホントに似合うか確かめてやるよ」
遠野は君島の顎を掬い上げ、チップについたアメジストのようなきらめきを湛えるルージュを目の前の唇に押しつけた。リップメイクなどなくとも血色の良い唇は、紫がかった淡い色合いに染まっていく。
「……ま、悪くはねえな」
「そうですか」
「鏡見るか?ああ、でもこっちのほうが、」
ぶつぶつ言いながら二本目に手を伸ばした遠野の手首を掴んだ君島は、そのまま自分の元に引き寄せた。
「んだよ……ッ」
重なった唇は、柔らかな感触を確かめるように二度、三度触れる。君島が距離を作ると、遠野の唇もうっすらとみずみずしく色づいていた。
「先ほどから考えていたのですが……それ、遠野くんのほうがお似合いかもしれませんね」
「ふうん?……なら、もっとつけてもいいぜ」
「いいんですか?」
「俺に似合うんだろ?」
君島の下唇を指でなぞり笑みを模る遠野のそれは、ほんのりと甘い薔薇の香りに彩られていた。
End.