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    🌻が部下夢主にラインを送ろうかもだもだ悩むだけの話。ほんとそれだけ。

    部下夢主に片想いする🌻の話 やらずに後悔するよりも、やって後悔した方がいいとはよく聞く言葉だ。しかし本当にそうだろうか。
     若い頃ならば失敗も成長の糧になるだろうが、三十も半ばをすぎてくると無茶な挑戦は勇気ではなくただの蛮勇のように思えてくる。臆病者の言い訳だと言う人間もいるだろうが、感情のままに行動するには些か歳を重ねすぎた。年々慎重さばかりが増していき、自分への言い訳が上手くなっていく気がする。

     ちらりと時計に目をやると、時刻は既に二十三時を回っていた。彼女はもう家に着いただろうか?駅まで送ると言う俺の申し出を「ここからなら歩いてすぐですから」と笑って辞退し、居酒屋の前で別れた彼女の背中を思い出す。しつこく引きとめる訳にもいかずにそのまま見送ったものの、やはり多少気掛かりではある。
     少し考えてからスマホを手に取り、メッセージアプリを立ち上げる。画面を下へとスクロールしていき、目当ての名前を見つけるとそれをタップしてトークルームを開いた。
     文章を打ち込もうと指を動かしたところで、一瞬躊躇いが生じる。これは果たして私的なやり取りなのか、それとも上司から部下への気遣いに含まれるのか。そんなことを気にしている時点で既に私的な内容だと認めてしまっているような気もしたが、それでもなんとなくトーク画面を閉じることができないまま入力欄にカーソルを合わせる。
     ──お疲れ様。ゆっくり休んでくれ。
     画面に打ち込んだメッセージを読み返して、眉間に皺を寄せる。この程度の労りの言葉ならばわざわざメッセージを送るほどの必要性を感じないし、それにこの文面ならば彼女だけではなく清水にも同じものを送らないと不自然だ。つまりこのメッセージは上司として部下に向けたものではなく、もっと個人的な意味合いを含んでいるということになる。
     小さく溜め息をついて打ち込んだメッセージを削除すると、画面に目を戻してもう一度文面を考え直す。
     ──遅い時間に一人で帰らせてしまってすまなかった。もう家には着いたか?
     悩んだ末に、結局当たりさわりのない文章を打ち込む。これくらいならば問題ないのではないだろうか。上司として、夜道を一人で帰った部下の身を案じているだけだと言い訳できる範囲であるはずだ。そう自分に言い聞かせながら送信ボタンに触れようとして、またすぐにその手を止める。
     こんなことをして俺は一体何がしたいんだ。
     普段であれば、業務時間外に大した用もないのに部下に連絡を取ろうとするなんてことはまずないのだが、どうしてここまで彼女を気にかけているのか自分でもよく分からない。それなりにセーブしていたつもりではあるが、やはり多少酒が入っているせいかもしれなかった。
     ずるずるとソファの背もたれに体重をかけて天井を見上げる。
     別に彼女とどうこうなりたいと思っている訳ではない。同じ事務所で働いている以上、これから先も顔を合わせ続けることになる相手だ。下手なことをして今後の関係に支障をきたす訳にはいかないし、あるいは妙な噂でも立てられたら彼女が迷惑を被ることになるかもしれない。
     それに、上司である自分が部下に手を出すなど到底あってはならないことだ。公私混同も甚だしい。そう頭では理解していながらも、少しでも彼女と繋がりを持ちたいと心のどこかで望んでいる自分がいるのも事実だった。
     矛盾だらけの心を持て余しながら、ぼんやりとスマホの画面に視線を落として過去のやり取りを眺める。ほとんどは業務連絡ばかりだったが、時折彼女が働き詰めの自分を気遣うような内容のメッセージを送ってくれることもあった。
     たまにはゆっくり休んでほしいと控えめに訴えかけてきたことや、体調を崩した時に心配してくれたことなどを思い出しながらその一つ一つに目を通す。どれも優しく穏やかな彼女らしい言葉ではあったが、それはあくまで俺が上司だから気遣ってくれているのであって、特別な意味などあるはずがないともう一人の自分が囁く。
    「……馬鹿馬鹿しい」
     自嘲気味に呟いてテーブルの上にスマホを投げ出すと、そのままソファの上にごろりと仰向けになった。照明の眩しさから逃れるように腕で視界を覆うと、目を瞑って大きく息を吐く。全くらしくない。こんな無意味な葛藤を続けて一体何になるんだ。
     シャワーでも浴びて頭を切り替えようと身体を起こしかけたところで、不意にスマホが短く震え反射的に画面に目を向ける。通知欄に表示された彼女の名前を見て心臓が大きく跳ね上がった。慌ててスマホを手に取りトークルームを開くと、届いたメッセージを確認する。
     ──今日はご馳走様でした。とても楽しかったです。おやすみなさい。
     短いメッセージではあるが、気遣いを感じさせる文章だった。たったこれだけの一言で先程までの鬱屈とした気分が嘘のように晴れていくのだから、我ながら実に単純だと思う。
     ──こちらこそありがとう。おやすみなさい。
     すいすいと画面に指を滑らせ、それだけの簡素な文章を打ち込んだ。もう少し何か書き加えた方が良いような気もするのだが、何を書き足せばいいのかさっぱり思いつかない。折角なら気の利いた言葉の一つくらいは添えるべきなのかもしれないが、そういった方面には全く自信がなかった。
     特にここ数年は仕事に忙殺されていて異性と色気のある会話を交わした記憶がない。せめてスタンプでも使えれば良かったのだが、生憎そういった類のものを使う習慣はない。
     散々悩んだ末に結局そのまま送信ボタンを押すと、俺は再びソファに身を投げ出した。たった一言メッセージを送っただけなのに、なんだかどっと疲れてしまった。全く、いい歳をした男が何をやっているのかと自分に呆れてしまう。これではまるで初恋を覚えた学生ではないか。
    『日車くんもたまには恋愛とかしてみたらどう?仕事ばっかりじゃあ、その内恋愛の仕方忘れちゃうよ』
     いつだったか、高木さんに言われた言葉をふと思い出して思わず苦笑した。
    「人生の先輩の言葉には耳を傾けておくべきだな」
     そう独りごちると、今度こそシャワーを浴びるために立ち上がる。いつの間にか日付は変わっていたが、不思議と眠気は感じなかった。
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