「ね、ねぇ。あれ、大石くんだよね」
「ほんとだ」
提灯の溶ける夕闇に浴衣姿の彼が立っているのが見えて、私は縁石に座る友達に投げかける。この地域ではもっとも大きな夏祭りゆえに、密かに想いを寄せる男の子を見かけても何もおかしくはない。私は普段着にすぎないただのワンピースでここへ来たことを激しく後悔した。彼は大鳥居の下に一人で佇んでいた。そして時おり、何かを探すように周りを見渡している。
「誰かと待ち合わせかな……」
「さぁ、テニス部の誰かじゃない? 菊丸くんとか」
それよりさー、とりんご飴か焼きそばで迷っている友達へ適当に相槌を打ちながら、私は大石くんの方にぼんやりと目を向ける。彼は紺地に淡い縞模様の浴衣を着流していた。今日一日で浴衣姿の男性は浴びるほど見たが、そのどれもが霞んでしまうほどにその姿は洗練されていた。普段の明るく親しげな雰囲気はひっそりと影を潜め、その代わりにまるで良家の長男のような凛とした空気を湛えていた。やはり人を探しているのだろう、目を眇めて遠くを見やる仕草さえも涼しげで、惚れ惚れするほど様になっていた。
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