初恋エンゲージ ピンポン。来客を告げる呼び鈴の音に、ファウストは宿題から顔を上げた。時間は午後5時。もうそんな時間になるのか、と玄関のドアを開けると、そこには黒髪の少年が立っていた。
「晶、今日も来たのか」
「えへへ、お邪魔します」
にこにこと笑う少年……晶を、ファウストは中へと招き入れる。晶も、リラックスした様子で玄関に足を踏み入れた。
「ファウスト、今日の夕飯は決まっていますか」
「ああ。パスタにする予定だよ」
晶を居間のソファに座らせ、ファウストはキッチンでお茶を淹れる。
「じゃあ、お掃除とかお手伝いすることはありませんか?」
「ないよ」
晶が手伝いを申し出て、ファウストに断られる。これも毎日繰り返すやりとりだ。それだけ断られればめげそうなものを、晶は辛抱強くファウストの元へとやってくる。
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