天使たちにクッキーはいらない びり、と衣類特有の破れる音がして、ユキは歩みを止めた。
後ろを振り返ると、吸血鬼としては幼い彼が、身に纏っているフリルをたくし上げているのが見えた。踵付近のボリュームのある白いフリルが中途半端なところで分かれてしまっている。どうやら飛び出した木の枝に引っかけてしまったようだ。
彼は暗い森の中でも判別できるほど、悲しそうな顔をしてユキを見上げた。
「ご、ごめんなさい」
「どうして謝るの。ケガはない?」
「……はい」
ユキは彼に近寄って、彼の目の前で跪く。彼と揃いの長いフリルが森の湿った土を撫でた。
ユキさんの服が汚れちゃうよ、と彼は慌てたが、ユキは気にしなかった。片目で彼のくるぶしを確認するが、出血はしていなかった。彼の言葉を信用していないわけでは無いが、彼はユキに遠慮がちだった。ほ、と息をついてユキは立ち上がる。
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