フィンを巡ってみんながバトったけど兄さまが無双した話【前回までのあらすじ】
デリザスタとの戦いが全国民に放映された結果、一部人々の間で人気が爆発したフィン。
やがてその人気は止まるところを知らず膨れ上がり、自分こそ1番のファンだと名乗る者の間で乱闘まで起こる始末。
そしてとうとう1番フィンを愛する者を決定する公的な大会が催されることに──
【フィン・エイムズにふさわしい魔法使いは誰だ!?No.1決定戦】
〜優勝者は何でも1つフィンくんに言うこと聞いてもらえるぞ〜
「僕何も知らないんだけどぉぉ!?!?」
今回の主役ことフィン・エイムズは絶叫した。
何を隠そう、フィンは何も聞いてないのである。
というか今日この瞬間までファンクラブの存在すら知らなかった。
急にイーストンに大量の人間がやってきたかと思えば裏の森にクソでかい弾幕を掲げられ、
「「「「うおおおおおフィンンンン!!!!」」」」
「ぎゃああああああああ!?!!?!!?!」
雄叫びを上げる謎の集団に捕まり会場へと連行され、現在に至る。
「というか僕の人権は!?何でも言うことを聞くってどゆこと!?ホントに何も聞いてないんですけど!?!?」
「さあさあフィンさんどうぞこちらへ!」
「VIP席をご用意しておりますので」
「誰も僕の話なんて聞いちゃいねー!!」
自称ファン達に両脇を固められ、有無を言わさずフィンは観覧席にぶち込まれる運びとなった。
◇
会場では既に戦いが始まっていた。
──いや戦いってなんだよ。
何で僕のために戦いが起きてるんだよ。
そもそも誰が戦ってくれと頼んだ。
誰か辞書で許可という字を調べてくれ。
呆れ顔で眼下の闘技場(のようにセッティングされた会場)を眺めれば。
「10%パルチザン」
「「「ぎゃああああああ」」」
「……ふん、口ほどにも無い」
『勝者!!レイン・エイムズ!!!!!』
「兄さま!?なんで!?」
何故か兄ことレインがいた。
何故かふつーーに選手として参加している。
胸元にゼッケンなんかつけちゃったりして。
せっかくのウサギのアップリケは真紅に染まっている。
──いや何でいるんだよ!!!
てか知ってたなら教えてよ兄さま。
頼ってくれとも言ったけれど、報連相は着実にしてほしい。
「パルチザンッ!」
「「「うわああああああああ」」」
『レイン選手、十人斬り!!勢いが止まりません!!このまま全員制圧してしまうのでしょうか!?』
「「「レイン!!レイン!!!」」」
「……うるせえな」
圧倒的オーラと魔力で周りを寄せ付けないレインに会場のボルテージは最高潮。
「ホント何しに来たの兄さま」
鳴り止まないレインコールの中、一切に動じずあっという間に数々のライバルを蹴落としていく。それはもう鮮やかに。VIP席から眺めるフィンは映画のワンシーンを観ているようだった。
「あーあ、どうせ兄貴が優勝だろ」
「つまんねえの」
「神覚者様ですもの、当然ですよ」
(……まあ、そうだろうね)
十割の魔力さえあればイーストンのほとんどの生徒を抑え込めてしまうレインだ。この会場にいる魔法使い達を倒すなんて、赤子の手をひねるようなものだろう。
周囲が諦めムードになるのも無理はなかった。
あと数分もすればカタがつくだろう。
そうしたら僕も帰れる──
そう思ったフィンだったが。
『フィン早押しクイズ!!お前にフィンが理解できるのか!?』
「何そのタイトル」
『このコーナーではフィン・エイムズに関するありとあらゆるクイズが出題されるので、回答者の皆様には早押しで答えてもらいます』
「だから僕の人権はどうなってるの?個人情報とは?」
やうやうチベスナ顔になりゆくフィンになど誰も気づかず、会場は一同皆モニターに映る選手を固唾を飲んで見守る。
あの激しい物理戦闘を勝ち上がってきた回答者三名。中央にはレインの姿もある。
しん、と静まり返る空間に司会者の声が響いた。
『第一問!!!』
「……っ、」
『フィン・エイムズのし』
「170cmだ」
『フィン・エイムズのた』
「52kg」
『足のサ』
「26cm」
『趣味』
「DIYじゃねえのか」
「「「うおおお!!!!!レイン!!!レイン!!!!!」」」
「……造作もねえ」
(怖ェーーーーー!!!!!)
フィンの動体視力を持ってしても追えないほどの高速回答が怖いのか、教えてもいないフィンの個人情報をレインが知っているのが怖いのか、もはや何も分からなかった。
その後もレインはフィンのお気に入りの服、好きな学食メニュー、最近のテストの成績、お気に入りの木材、喋る時の癖、よく言う寝言……などなど全てを滑らかに、そして完璧に答えていく。
──実の兄に色々知られてるの、なんか嫌ッ!
他の追随など当然許さず、一気にトップに躍り出るレインであったが、突如その回答ボタンを押す腕が止まる。
「……兄さま?」
『おーーーっとここでレイン・エイムズの進撃が止まりました!!』
「ではこの隙に。魔法生物学」
『正解!!中等部時代のフィン・エイムズが最も得意だった科目は何か!魔法生物学でした!!』
問題が中等部の頃のに差し掛かり、レインは苦戦する。先程まで涼やかだったその顔はみるみるうちに歪んでいった。
『中等部の頃、フィンが購買でよく買っていたものは!』
「魔法薬学のノートですね。薬をこぼして焼けてしまっていたので」
『中等部の頃、フィンが最も飲んでいた飲み物は!』
「ゴブリンサイダーだろ?あの一瞬話題になったけど、味うっす!で一気に廃れたやつ。でも俺達のフィンは愛飲してたんだよな」
(あーー、あれかあ。小さい頃兄さまと分け合ったソーダに似てたから飲んでたけど、虚しくなってやめたんだよなあ)
「……チッ」
それからも中等部の頃のフィンが好きだった歌や信頼していた教師、授業中の困ったエピソードなど様々な問題が続くが、やはりレインの手は動かない。徐々に他の回答者の得点がレインのそれに追いついてくる。
勿論、レインも周りが知っていて自分は知らないフィンの姿に内心穏やかではいられない。
さらに深く刻まれた眉間の皺を、周りの回答者達は余裕の表情で見下ろす。
「流石のお兄さんでも知らないことがあるんですねえ?」
「じゃ、俺が優勝もらっちまいますか」
「……っ、クソが」
『では最後の問題です!!これに正解すれば500ポイント、優勝違いなしです!!』
高らかに宣言された最終問題に、この日1番の盛り上がりを見せる会場。
『中等部時代、フィン・エイムズは傷つき倒れている生徒に出会します。他寮の貴族階級の生徒が嫌がらせで魔法を浴びせかけたのでしょう。今すぐ何かをしなければ危険な状態です。しかし、その生徒を助ければ自分がターゲットにされてしまいます。下手をすれば自分と同じ寮の生徒も襲われかねません。そんな時、フィンが取った行動とは?』
(そんなこともあったなあ……)
苦い記憶を思い返すフィン。
けれど現場にレインは居なかったし、そもそも避けられていたのだから何があったかなどレインが知るはずもないのだ。
諦めに似た心地で視線を下げれば、レインが静かに瞼を閉じるのが見えた。
「オレは、お前を信じる」
(……兄さま?)
『このクイズの回答は……おおっと!?ここでレイン・エイムズ、 ボタンを押しました!!』
突然動き出すレインに観客はざわついた。
フィンでさえも何が起きたのか分からなかった。
狼狽える左右の回答者には目もくれず、レインはただ前を見据える。その向こうにいる、フィンを見つめるように。
「急いで傷を癒すハンカチを当てて現場を離れ、最速で力のある教員を呼びに行く、だな」
『レイン選手即答です!!』
「直接手を出せば危害を加えられる。それをものともせず助ける……というのは現実的じゃねえ。共倒れのリスクがある。第一、襲われる恐怖に脚が竦むことだって……オレ達は人間だ、おかしくはないだろう。だが、放っておけるほどあいつは薄情にはなれねえ。自分にできることを……あいつなりの最善を尽くすはずだ」
時間が止まったようだった。
言葉が出ない。
──これは夢なのかな。
ずっと、避けられていたと思っていた。
ああは言ってくれたけど、やっぱり兄さまも心の奥底ではこんな不出来な弟なんて、と思っているのではないかと……ずっと不安だった。
けれど、レインの口が語る言葉はそんなもの軽く飛び越していって。
「はあ?見てない奴が答えなんてわかるわけないだろ」
「中等部時代に一切話をしていなかったという貴方が知るはずないでしょうに、適当な回答は見苦しいですよ」
「うるせえ。フィンだったらそうするだろうと思ったまでだ。根拠もある……フィンは、遠い昔にオレが贈ったハンカチを無くしたと謝ってきた。傷を治癒するハンカチだ。物を大事にする……特に人から貰ったものは絶対に蔑ろにしないフィンが無くすはずはない。きっと、その時の治療に使ったんだろう」
「はっ、神覚者様は妄想逞しいこって」
「想像だけで正解できるとでも?」
どよめく観衆の中、ただレイン一人が変わらぬ顔のまま言葉を紡ぐ。
「確かにあの頃、オレはフィンに関わろうとしなかった。それは事実だ。だがこの中で誰よりもあいつを見てきたのはオレだ。オレはあいつを信じている。……これが答えだ」
『……っ、正解です!!!!!!!!』
瞬間、会場が割れんばかりの拍手と歓声に包まれる。
「なんだと!?」
「兄弟の絆に勝るもの無し、ですか……」
駆け寄る人々に揉みくちゃにされるレインを、フィンはぼうっと眺めていた。
誰よりも真剣にフィンを想い、誰よりも理解しようとしてくれた事実。
「兄さま……」
自分が思うよりずっと、レインは自分を愛してくれていた。
それだけでフィンの目頭は熱くなって、身体中が沸き立つような心地になって──
会場の中心にまっすぐと立つ、誰よりも格好良い兄の姿に心奪われていた。
フィンが茫然としている間に人々の隙間を抜け出してきてぼろぼろになったレインが、すぐそこまでやってきていた。
「……フィン、優勝の権利だが」
「っ、うん」
そこでレインはすっかりぐしゃぐしゃにされた前髪を雑に掻き上げる。
「?」
「ここにキスしてくれ」
「へあっ!?」
「小せえ頃してくれただろ、頑張った兄さまにご褒美だ……と。あれを、もう一度強請るのは……駄目か?」
そんな小さな頃のことまで覚えていたの?という驚きに、そんなことでいいの?もっとあげたらダメなの?という気持ちが入り混じっては心の中を掻き乱す。
「……失礼、します」
フィンは差し出されたレインの額にそっと口付けた。それから一呼吸置いて、
「兄さま」
レインの唇に自分のそれを重ね合わせた。
「大好きだよ」
◇
その後、フィンに抱きついて離れなくなってしまったレインに、最終的には会場からストップがかかったのだが、それはまた別のお話で。
『後は家でやってくださーーーい!!!!!』