ホワイト・アウトこの季節になるとネオンライトとイルミネーションの区別が付かなくなる。
街中が浮かれぽんちのおめでた気分で、朝から晩まで外国のクリスマスソングが流れている。
だが、今日は12月24日_クリスマス・イブ。この幸せムードも残りあと一日の短い命なのだ。
そう考えるとまったくひとというものは情緒がないというか、薄情である。
「いつまで選んでんだよ!麻矢!」
おーっ寒い!無宇が身震いする。
「うるさいなぁ、寒いなら車で待ってろよ!」
ぶちぶちと文句を垂れながら車に戻っていく相棒を冷ややかな眼差しで麻矢は見た。
車を離れて10分も経っていない筈なのに車内は冷え切っていた。たまらず暖房を付ける。
しばらく待っていると紙コップを両手に持った麻矢が戻ってきた。
「ったくせっかくのクリスマスイブだってのに男二人でドライブなんて虚しすぎるぜ!」
麻矢から渡されたコーヒーを啜る無宇。
「それも仕事だぜ。イブの夜に!ついてねぇよなァ」
ふたりはサーカスの面々で催すクリスマスパーティーのケーキを買ってくるよう言いつけられているのだ。
車の外を見ると雪が振り始めたようだった。今日という日を盛り上げるのにもってこいのシチュエーションだ。
はらはらはらと舞い散る氷の結晶を麻矢はぼおっと見つめていた。ぼおっとしていたので考えなしに口から言葉が零れた。
「無宇、雪は好きか?」
「え?」
無宇は(自分に背を向けている)相棒の問いかけに不自然を感じながらも答えてやった。ほら、俺って何だかんだ言って優しいからサ。
「別に!寒いばっかでおもしろくもなんともねぇもん。ガキの頃は嬉しかったかもしんねぇけど」
「そう」と麻矢からは簡素な返事があるだけだった。彼は窓の外を見続けている。そんなに雪が珍しいのか?それとも彼は意外とロマンチストなのだろうか。
無宇は町の商店街からうっすらと聞こえてくる「ジングルベル・ロック」に耳を澄ませながら(彼は静寂が嫌いなのだ)コーヒーを飲み干した。
隣を見やると水色の頭はまだ外の景色を眺めていた。いよいよこの奇妙な空気に耐えかねた無宇は呆れ返った声で
「麻矢ちゃんよ、お前がいつまでもこのムードに浸っていたいのは分かるけど、そろそろ仕事始めねえとマズいんじゃねぇの?」
肩を叩くと振り返った麻矢は珍しく真剣な表情をしていた。
「そうだな。」
麻矢は無宇の手から空になった紙コップを回収すると、彼のものと重ねてドリンクホルダーに置いた。その手がほんの一瞬触れ合ったときやけに熱く感じたのは、たぶん暖房が効きすぎているからだろうと無宇は思った。
「このまま二人でどっか行っちまいたいなァ」麻矢がぽつりと呟く。
「ああ…この金で美味い酒でも飲みに行けたらなァ」
「でもそんなことしたら、」
「よくてマイナス50ポイント、最悪刑務所に逆戻りだ。」
二人は顔を見合わせ、笑った。
思いっきりアクセルを踏んだらいよいよスピード狂の血が滾る。
「早く自由になりたいな、無宇」
色とりどりの明かりが交差する真っ白な世界、麻矢は焦がれるような瞳でそう言った。