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    zen_mitsuno

    宿伏の民です。

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    zen_mitsuno

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    12/12(日)DR Fes.2021 半径140m外の執着点の開催を祝って!
    現パロ/同棲している宿伏のとある日曜日の小話。
    無配です。

    #宿伏
    sleepVolt
    #現パロ
    parodyingTheReality

    Dozen Rose Dayに寄せて ふんわりと頭を撫でられた感覚でゆるやかに意識が覚醒した。
     アラームの必要ない日曜日。最近の冷え込みの厳しさがベッドから出ることを億劫にさせる。
    「ん、もうちょっと…」
     もぞもぞと寝返りを打ってから、声が聞こえないことに気付いた。仕事のある平日なら遅刻の心配をして柔らかく溜息をつきながら、週末ならば二度寝すると朝食が冷めるぞと笑いながら返事をくれるのに。恋人の名を呼びながら瞼を持ち上げると、目の前に真っ赤な色が飛び込んでくる。驚いて一気に思考がクリアになり、その色が枕元に置かれた1本の薔薇のものだと分かった。
    「何で薔薇?」
     ベッドの中で起き上がり欠伸をひとつ。触れた茎に棘はなく、花弁が瑞々しい。二人だけの住まいでこんなことをできるのは一人しかいないが、理由を思いつけない。ベッドサイドに置かれた時計を見ればいつもの起床時間より早く、おそらく恋人は朝食作りに勤しんでいる頃と思われた。
     聞けば分かるだろう。一階のキッチンへ向かう前に伏黒は寝間着を脱ぎ捨てる。カーテン越しの淡い朝日に照らされる白磁の肌には昨夜の名残が多く残っており、かの恋人の執着の度合いを表しているようだ。
     アラームをリセットしてから、ぺたりとフローリングに足をつける。床暖房のおかげで震え上がることなくクローゼットの前へ立った。取り出した部屋着はサイズ違いで揃えた同色のものだ。
     最初は確か茶碗だっただろうか。老舗の瀬戸物屋へ連れて行かれ緊張している上に、男二人で夫婦茶碗を買い求めるなんて正気を疑われないだろうかと焦ったことを覚えている。店員はプロだから微塵もそのような素振りを見せることなく丁寧に品物を包んでくれたので、杞憂だったけれど。二人であれこれ相談しながら買い求めた品は質が良く、今も食卓で活躍している。
     部屋着についてはこの冬のために買い替えたもので、保温性に優れていて温かいところがお気に入りだ。寒さに弱い伏黒のことを気にかけてくれた恋人が一人分だけ買おうとしたところを止めて、店員に恋人のサイズを尋ねたのが記憶に新しい。
     この家にはそういう類のものがたくさんあり、そのどれにも思い出が詰まっていて恋人と過ごしてきた時間を目の当たりにできる。こんな風に一緒に暮らしているなんて、彼と出逢ったばかりの伏黒に告げても絶対に信じない。当時の伏黒は荒んでいて……いややめておこう、黒歴史として葬り去りたい過去なので。
     姿見に映った1本の薔薇を手にした自分。幸せそう、などというと友人に惚気と捉えられるかも知れない。昔と比べて随分と穏やかになった表情を一瞥してから寝室の扉を開けた。
     花を眺めながら廊下を進み、洗面所に着いたところで伏黒は小さく声をあげる。2本の歯ブラシの隣に、また1本の薔薇が並んでいたのだ。これで2本目だ。行く先々に続いているんだろうかと少し楽しみになってくる。1本目の薔薇も一旦差し込んで、洗面と歯磨きを済ませた。冷たい水に触れてはっきりした意識で、今日が何の日かと暫し考える。誕生日には少し早く、付き合い始めた日とも違う。もちろん一般的に祝われるクリスマスでもない。記念日を理由としたものではないか、自分の知識にないだけの可能性もある。聞けば分かることなのだけど、答えを見つけ出してそれを相手より早く言ってやったらどんな顔をするだろうと思ったのだ。恋人のスペックを考えれば当然かもしれないが、普段から先回りされることが多いのでたまには鼻を明かしてやりたい。考え込んだ末に理由は分からず諦めた伏黒は、2本の薔薇を抜き取ると恋人のいるであろうキッチンを目指す。
     リビングに姿がないことを確認して、その先のダイニングへ。語尾の延びた呼びかけに返答はまだない。ダイニングテーブルにはランチョンマットが引いてあり、これから朝食を並べられることが見て取れた。中央には普段置かれていないシンプルな花瓶。その中で咲き誇る薔薇は9本。数が集まると花の持つ華やかさがより際立っている。花瓶にそっと手の中の2本を加えて、うんうんと頷く。まるで自分が用意したような態度に自分で笑った。
     さて、この花を用意した張本人はどこにいるんだか。キッチンを覗くと、俺の為に導入されたIHクッキングヒーターの上に片手鍋がある。そっと蓋を開けると湯気とともに澄みきったスープの綺麗な色が見えた。調理してからまだ時間は経ってなさそうだ。此処にも姿が見えないとなると、出掛けている可能性が高い。声に反応しない辺りで大体予想はしていた。
     恋人は自分に甘く、過保護が過ぎる。初めて出会った時を除いて、常にそのような態度だったから、そういう性格なのかと思って周囲に尋ねたら全員に否定されて驚いたことがある。常に車道側を歩いたり、ドアを開けて先に通してくれたり。座る時に椅子を引いてくれたり、数え出したらキリがない。それら全てはどうやら俺限定らしいのだ。そう聞いてから暫くはいちいち過剰反応してしまって、どうした何か気に障ったかと尋ねられた。理由は嬉しいとか気恥ずかしいなんてものだから、気持ちを隠しつつ誤解を解くのは大変だった。
     付き合い始めて、さらに同棲するようになって大分慣れたつもりではあるのだけど。不意にこちらの心臓を貫くような言葉や、耳まで熱くなってしまうような行動は健在で、自分ばかりドキドキさせられているところが唯一の不満と言えるかもしれない。偶にはこちらからアッと驚かせるようなことをしてみたいものだ。知識面では叶わないし、平常心を崩すのは中々難しいだろうけれど、いつか実現したい密かな野望である。
     壁掛け時計を見れば、そろそろいつもの起床時間に差し掛かりそうだ。鍋の中身から今朝は洋食だろうから、サラダでも用意しようかと冷蔵庫を開ける。料理は恋人の得意分野だが、手伝い程度ならこなせないこともない。ロメインレタスとトマト、ベーコンもカリカリに焼いて入れようかな……、と物色していると玄関のドアが開かれる音がした。
     冷蔵庫を閉めて足早に玄関に向かう。体格のいい恋人が持つと小さく見えるエコバッグを片手に、靴を脱いでいる姿が見えた。黒のシックな服装と犬のワンポイント刺繍入りのエコバッグとのギャップが可愛らしくて、くすりと笑みがこぼれる。
    「宿儺、お帰り」
     顔を上げた恋人が少しだけ頬を緩めた。
    「ただいま戻った。起きていたか、待たせてしまったな」
     駆け寄ってエコバッグを受け取り、首を横に振る。
    「何を買ってきたんだ?」
     見て構わないと言われてバッグの中身を覗くと、紙袋の隙間からバケットが見えた。持った部分がふわりと温かい。きっと焼きたてなのだろう。美味しそうだと呟きを漏らしたら、宿儺から意外な言葉を言われた。
    「昨夜食べたいと言っていただろう」
     正直まったく覚えていない。そんな会話を交わしただろうか。疑問が顔に出ていたようで、答えはすぐ寄越された。
    「ああ、オマエはもう半分寝ていたからな。覚えておらんか」
     意味を理解してしまって、カッと一気に頬に熱が集まる。宿儺が言っているのは昨夜愛し合った後所謂ピロートークの内容なのだ。毎回疲労困憊してしまう俺は、申し訳なくも後処理を宿儺に任せて行為後寝入ってしまう。その時一体どんな話をしたのか分からないけれど、宿儺が言うのだからきっと間違いない。こんな爽やかな朝に、濃厚な夜の記憶を芋づる式に思い出してしまって、腹の奥がきゅんと疼いた。浅ましい身体に恥ずかしくなって、エコバッグの中身を潰さないように気を付けながら宿儺に抱きつく。顔を隠したくてぎゅっと胸元に押し付けると外から戻ってきたばかりの彼から冬特有の匂いがした。
    「いつまでも慣れぬなぁ、伏黒恵」
     笑いを含んだ台詞に反論しようと顔を上げたら、ひょいと抱き上げられた。バッグを落とさぬように慌てて抱えてまた笑われた。どうやら今日の俺の恋人はかなり上機嫌のようだ。一応鍛えている成人男性一人を横抱きにして、微塵も揺らぐことなく宿儺は歩き始めた。
     着いたダイニングのテーブル上には11本の薔薇がある。そうだ、と理由を尋ねようと思っていたことを思い出す。
    「なぁ宿儺、これどうしたんだよ。あと降ろせ」
    「ん? 知らずにこの本数にしたのか。無意識であってもオマエは魅せてくれる」
     ゆっくりと足裏がフローリングについた。冬場でもあたたかい手が俺の耳をくすぐり、離れていく。手の行方を思わず目で追うと、少し距離を空けて向かい合った宿儺は空中に向かって空の手を伸ばした。そのまま空気を掴むような仕草を見せると、その指先には薔薇の花が現れている。
    「えっ」
     何も持っていなかったのは確かなのに、目に映る薔薇は花瓶にあるものと同じに見える。テーブルを振り返っても花瓶に生けてある本数は11本のままだ。困惑している伏黒を愉快そうに眺めていた宿儺が口を開く。
    「これはオマエに」
     丁寧な仕草で差し出された薔薇を受け取ると宿儺は続けた。
    「薔薇は贈る本数ごとに意味が変わるらしいぞ」
     興味があれば調べてみるといい、と言って満足したのか、エコバッグを攫ってキッチンへ去っていく。
     どうやら今教えてくれる気はなさそうだ。残された伏黒は数秒ほど薔薇を検分するように見ていたが、薔薇が喋るわけもなく、花瓶にその1本も加えて宿儺の後を追った。
    「どうした?」
    「今日は俺も手伝う」
    「そうか、ならば…」
    「サラダだろ?任せてくれ」
    「ああ、任せるとしよう」
     ダイニングでは12本の薔薇が恋人達の食卓を彩るため咲き誇っている。
    ――種明かしは朝食の後で。
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