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    tennin5sui

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    tennin5sui

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    セリフいただいて短い話かくやつ!
    今回はマロさんからいただきました
    https://x.com/namdegnah/status/1805277781770797414?s=46&t=I8SllO0WqrU48dJMDg8mOg

    #マリビ
    malibi
    #マリアビートル
    maryBeetle
    #果物コンビ
    #果物
    fruit

    「俺に言うことがあるだろう」 駅前のチェーンの喫茶店は盛況らしく、蜜柑と檸檬が座席に座った直後に、サラリーマンらしき男が駆け込んできた。慌ただしくカウンター席に座り、アイスコーヒーを注文する。二人はテーブル席に腰を下ろし、先ほどのサラリーマンに倣ったわけではないが、メニューを差し出される前に飲み物を注文した。
     席につき、荷物を下ろす。蜜柑はカバンの中から単行本をとりだした。その本を置くか置かないかのところで、檸檬が
    「なあ蜜柑。俺に言うことがあるだろ」
    と切り出してきた。蜜柑は檸檬から視線を逸らし、店内を見回す。店員が水とおしぼりを持ってきたので、テーブルの上に置いた単行本を端に避ける。徐々に夏らしい暑さが目立つようになってきたものの、冷房の効いた店内では温かいおしぼりが嬉しい。
    「言うこと、とは何だ。覚えがない」
    「こないだの仕事のことだよ。配達の」
    「二日前のか。問題なく終わった。依頼主にも、そう説明した」
     蜜柑の手首には、二日前に請けたその仕事のかすり傷が、治りかけで残っていた。再生したばかりの皮膚が、赤く線になっている。
     面倒な仕事ではなかった。よくある話で、運び屋が欲をかいて荷物に手をつけたから始末してほしい、という依頼だった。着服された荷物は無事回収したものの、要はメンツの問題で、生かしておくわけにはいかない、というのが依頼主の主張だ。運び屋が部屋でくつろいでいるところに乗り込んで、一発。それでおしまい。あっさりしたものだ。手首の傷は抵抗を受けたためにできたわけではなく、部屋のドアを檸檬がこじ開ける際にうっかり銅線を跳ねさせたためにできた。そういえば、その檸檬の不注意による怪我についての謝罪をもらっていないな、と思い出す。
    「俺よりも、おまえの方が言うべきことがあるんじゃないのか。ほら、この傷だ。責任を感じないのか」
    檸檬はチラッと傷を眺めると、治りかけじゃねえか、とのんびりと言った。
    「悪かったって。汗かいてたからな。手が滑った」
    何でもないように言ってのける。
    「俺が言いたいのはな、蜜柑。おまえ、あの部屋から持ち出したものがあるだろってことだ」
    「持ち出したもの、か」
    檸檬は、蜜柑の顔色を伺いながら、ゆっくりと話す。
    「依頼の報告をした時、依頼主が聞いてきたのを覚えてるよな。運び屋の部屋から、何か持ち出したかどうかだ。俺たちは何も持ち出していません、とエドワードみてえに行儀よく答えた。けどな、俺は覚えてるんだよ。おまえ、あの部屋の本棚から何か抜いただろ」
    話題の核心に迫っても、檸檬の口調はのんびりとしたまま変化はない。けれど、意識は鋭く蜜柑へ向いているのが分かる。ふ、と檸檬の視線が逸れた。ウェイターが運んできたコーヒーとメロンソーダが、二人の前に置かれる。話を中断して飲み物に口をつける。
    「見ていたとは思わなかった。たしかに俺は本棚から本を抜いた」
    「だよな。貴重な本なのか?いや、それよりも、それで依頼主に迷惑が掛かるんじゃないかだとか、そういうことは考えなかったわけか。言わなきゃいけなかったことってのは、蜜柑、おまえのごめんなさいだ」
     蜜柑はテーブルの上の単行本にそっと触れた。まさにこの本が、二日前に配達人の部屋から持ち出された本だ。
    「黙っていようかと思ったんだがな」
    「何をだ」
    「この本には、発信機が取り付けられていた」
    「発信機?」
    蜜柑は単行本の表紙を開き、カバーを剥がす。表紙の硬い紙の端の方が丸くくり抜かれている。中には何も入っていないが、小型の機械を仕込もうと思えば、十分な大きさだ。蜜柑はその穴をくるりと撫でる。
    「ここに、入っていた。この本は本棚から少しはみ出していたんだ。本を取り出したにしてはわざとらしい。だから俺はこの本を回収したわけだ。まあ、あの運び屋も自分が狙われているのを、薄々勘づいていたんじゃないか。何をしたかったのかは知るよしもないが、自分の身に危害が加わるかもしれないって時に、犯人に一矢報いたいだろうさ」
    「なるほどな」
    二人の会話は途切れ、檸檬の注文したメロンソーダのグラスが結露して、雫がコースターを湿らせる。二人より後に入ってきたくせに、サラリーマンは早々に飲み物を干したらしく、慌ただしく出ていく。


     檸檬はその様子を目で追い、扉から出ていくところを見届けると、蜜柑の方へ身を乗り出す。
    「今の話、信じたかな」
    弾んだ声は先ほどの穏やかな口調とは打って変わって、イタズラを楽しむ子供のような響きを伴っていた。
    「勝手に本持ち出して怪しまれるなんて、珍しいじゃねえか。貴重な本なのか?」
    「貴重ではない。絶版というわけでもない。ただ、俺の行った本屋では取り扱いがなかっただけだ」
    二日前に本を買いに出かけたのだが、目当ての本が丁度品切れをしていた。本屋をはしごする前に仕事の時間になり、たまたま運び屋の本棚に欲しかった本がささっていたので、つい持ってきてしまったのだ。仕事はきちんと遂行していたし、運び屋がちょろまかした物品は取り返した後なのだから、そう気を使う必要もないと判断したのだが、存外依頼人は細かい性格だったらしい。
    「わざわざ探偵を雇うのも大袈裟だよな」
    檸檬が笑う。なかなか綺麗に切っただろ、それ、と本を指さす。
    「これだけ綺麗に切ってあれば、読む時にも気にならないだろ」
    「もう読み終わってる」
    蜜柑は単行本をまたカバンにしまい込んだ。今日のところは、喫茶店で優雅に読書、とはいかない。檸檬の会話に付き合う必要があった。
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