「ファウスト様、お茶を淹れ直してきますので少しお待ちください」
「ああ、ありがとう」
席を立ったレノックスを目で追い、ふと振り返ると、淡い紫色をした空から金色の光が差し込んでいるのが見えた。
「もうこんな時間か。外が暗くなってきてる」
「本当ですね。そろそろ夕食の時間かもしれません。……あっという間でした」
「ああ。きみの話を聞けてよかった」
今日は昼過ぎからレノックスの部屋を訪れ、彼の話を聞いていた。口下手なレノが、ゆっくりと、時には沈黙しつつも丁寧に紡いでゆく彼の物語は、どれもとても温かなものだった。
湯が沸くのを待ちながらお茶の準備をしてくれている彼の後ろ姿は、草原を優しく撫でる風のように穏やかで、すべてを包み込む海のように力強い。
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