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    ハルナスビ

    気が向いたらヘクマンを書いてます

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    ハルナスビ

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    ヘクマン。Twitterにあげてたけどなんとなく。
    「それはとてもあたたかくて」
    題名通りにはなってる。うん。めちゃくちゃ暗い。
    ちょっとだけ変えた。プレビューないから辛い

    ことこと。ことこと。
     作りかけのシチューがやわらかな音を立てる。完成まであと少し。いつの間にか鼻歌を歌っていたことに気づいてふっと笑う。マンドリカルドは一人家の中で夜ご飯を作っていた。まだ中学生ではあるが、一緒に住む相手のために料理を練習し、今では申し訳ないレベルではあるが、出せるほどになっていた。

    帰ってきたら、彼は何て言うだろうか?

     マンドリカルドはヘクトールと同居している。
    はたから見れば何の変哲もない親子だが、自分と彼とは本当の家族ではない。言ってしまえば、彼は赤の他人だ。

     両親は俺の目の前で刺され、帰らぬ人となった。そこを彼に拾われたのだ。ヘクトール曰く、外食後の帰り道にチンピラに絡まれていたらしい。自分は幼く、一人で生きていくことなど到底不可能であった。その後、葬式で途方に暮れていた間に彼は親戚たちを説得して引き取ってくれたのだ。


     “大丈夫かい?”

     “オジサンがいるよ。一人じゃないさ。”


     あの日はどうにも記憶がぼんやりしてはっきりとは思い出せないが、差し出された手がとても優しかったことは鮮明に残っている。

     自分がヘクトールに“それ”以上の感情を抱いていることはわかっている。自分を善意で助けてくれた彼にそんな思いを寄せてはいけないと、彼には彼の幸せがあると、そう思ってはいる。この想いは誰にも渡さない。秘め、隠して閉じ込めていくのだ。

     「…やっべ!そろそろ火ィ止めねえと!!」

     心臓が早鐘を打つ。緊張のせいでもあるが…これは、どうしたらいいのか……
    なんとか彼が帰ってくる前に平常心を取り戻さねば。

     マンドリカルドはキッチンで目に付いた汚れを拭き取り、夕食で使う食器を用意し、ゴミや何やらをまとめて綺麗にし始めた。

     やはり掃除は無心になれる。すっかり整理されたキッチンを眺め、ふうと息を吐いた。満足して床を見渡すとそこには蓋があった。

     いわゆる床下収納。
    普段は踏み台やゴミ箱があったから気づかなかったのだろうか。床下収納は気温がほぼ一定であることから食品の保存に適しているらしい。俺は彼が時々ワインを嗜んでいたことを思い出した。もしかしたらこっそり閉まっていたのかもしれない。そうか。彼が時々台所で前触れなしにくすくす笑っていたのはこれを楽しみにしていたのだろう。ちょっとぐらいなら覗いてもいいかな。


     蓋を持ち上げ、膝をついてのぞき込む。深いのかと思っていたが、そこは案外狭く、“それ”を入れるためだけに作られたようだった。
     綺麗な桐の箱だった。直方体ではあるがワインが入っているにしては小さい。何だろう?そっと開けると予想もしなかったものがそこにはあった。


     それは、血濡れのナイフ。

     特徴のある刃でも、豪華な装飾のついた柄でもなく、ただ“ナイフ”だった。

     血はいつ付いたのかわからない。もう固まり、酷く醜い色となっている。

     こびりつくそれは、もとは真っ赤だったはず。

     どこかで見たことある、それ、は

     頭痛がする。何かが頭を掠めた。

     何かが一瞬光る。 生温かい何かが顔にかかった。 両親の姿が視界から消える。

     電灯が瞬く。

     そして、自分に手を差し伸べた彼。


     かれの、か、おは、わらって、る?




     待て。今なんで彼の姿が思い浮かんだのだ。彼は違う。彼は俺を助けてくれた人だ。


     …その時彼はどんな姿をしていた?

     電灯の逆光で真っ黒だったスーツは本当に黒一色だったのか?

     その、スーツに、赤は、あの色は、混じっていなかっただろうか?




     その箱を手にしたまま、どれほどの時間が経っていたのだろう?

     それほど長くなかっただろう。ただ、もう完成したシチューがあるということは


     “お前の出来立ての料理が食べたいから”と。


     彼が帰ってくるのにちょうどいい時間であって。





     不意に人の気配を感じた。振り向く間もなく抱きすくめられる。

     「いつもみたいに玄関に来ないから、心配しちゃった」

     耳元でそっと囁く声が聞こえる。それは何故だか遠くて。

     「今日はシチューかい?いい匂いだ。」

     抱きしめてくる彼の温もりがわからなくて。

     そっと、そっと心に触れるように彼の腕に手を寄せた。

     「ヘ、クトール、さん」

     声が震える。後ろを振り向くことができない。

     「うん、ただいま。マンドリカルド。」

     にっこりと、そんな音が聞こえるくらい、きっと彼は笑っていた。

     「掃除していたのかい?偉いな。」

     手に抱えた箱がずっしりと重みを伝える。声が上手く出てこない。ヘクトールさん、これ、これは。

     「ああそれ?見つけたんだね。」

     いたずらが上手くいった子供のような声で彼は答えた。見透かされている。こんな俺の考えぐらい、彼はすっかりわかってしまうのだ。

     いやだ。ききたくない。おねがいだからいわないでくれ。おねがい

     「ヘ、ヘク、トールさ「そうだよ」

     「それはお前さんの両親を刺したナイフだ」

     「……っ!」

     なんで。なんで。わからない。両親を刺したのは、ヘクトールさん?
     でも、でも、引き取った。ひとりぼっちの、何もできないこどもを。

     「オジサン、一目惚れなんだよねぇ。」

     俺の存在を確かめ、知らしめるかのように強く抱きしめる。

     「今のお前さんもすごくかわいい。……出会った瞬間愛しさが溢れてきたんだ。」

     「その時ちょうどチンピラに絡まれていたから

    ああ、邪魔者をまとめて消せるなって」

    ごめんな。そう聞こえた気がしたが、今の俺にはよくわからなかった。

     「好きだよ、俺のマンドリカルド。」

     「俺はお前を一生離してやれないんだろうなぁ」

    ………でも、愛してくれるんだろ?

     抱きしめてくる彼は、その優しさ、愛しさは

     なんだかとてもあたたかかった(冷たかった)。
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