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    shirone_chiro

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    shirone_chiro

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    鶏鳴狗盗明かりが蝋燭しかない薄暗い部屋。
    その弱い明かりが、香と煙管を浮かび上がらせる。

    「さてと、生年月日は?」

    目の前の男は、いつもと異なる服に身を包み、ニッコリと胡散臭い笑顔を浮かべる。揺れる蝋燭の炎が、男の眼鏡に反射する。

    「ほれ、はよ。」

    そう言って目の前の男はクイっと人差し指を曲げる。

    シャラン……

    静かな空間に、シャガラの腕輪がぶつかる金属音が響く。

    「シャガラ様……これは、なんの真似でしょうか?」
    「なにって、占いや。」
    「占い、ですか?」

    シャオは怪訝な顔でシャガラの顔を覗き込んだ。この男が、占いなんて根拠の無いものを信じている。それがシャオには信じられなかった。

    「ワシの占いは当たるで?これで食うていける程に……な?」

    そう言うとシャガラは煙管をふかし、目を細める。

    「占い、お好きなのですか?」

    この男は朝食を食べながら、ニュースの星占いで一喜一憂して出社をしている。ただ、それだけだと思っていたのだが……

    「ん。なかなかおもろいで?……なんや、その占いなんか1ミリも信じてませんっちゅう顔はw」

    シャガラは閉じた扇子でピシャリとシャオのおでこを叩いた。

    「ええか、シャオ。占いは学問や。信じる信じひんは置いといて、学問やとおもて一回ワシの体験型学習に付き合って貰えんやろか?」

    正直、オレは占いには興味が無い。なんの根拠も無いものを信じて振り回される奴らは滑稽で、ああはなりたくないと思う。

    「なんや……もしかして、占いを信じてしまうんが怖いんか?」

    眼鏡の奥でバンカラ特有の橙色の瞳が鋭く光る。息が詰まりそうだ。シャオは目を閉じ、ゆっくりと息を吐いた。

    「……良いでしょう。お付き合いいたします、シャガラ様。」

    わざわざこうしてこの男が、時間を割いて教えてくれることは滅多にない。この男が占いの一体何に惹かれているのか?それもまた興味がある。少し危険な香りがしながらも、シャオはシャガラの提案を受け入れた。
    オレの顔を見た目の前の男は、目を細めニヤリと口角を上げる。そして煙管の火を消し、服を整える。

    シャラン……

    静かな部屋に金属音が響く。
    その音に自然と背筋が伸びる。

    「さぁ、始めよか?」

    シャガラが香の煙が満ちる中で、胡座で鎮座する姿は非日常を感じずにはいられなかった。

    「じゃあ、生年月日と、生まれた時間。あと出身地を教えてもらおか?」
    「生まれた時間は……さすがに分からないですね。」
    「分からんかったら分からんでええで?大体でもええ。」
    「そうですか。それでは……」

    シャオはシャガラの質問に順番に答えていく。その質問に合わせて、シャガラは謎の道具を回し、何やら筆で書いていく。そして、眼鏡をずらし、肉眼でコチラをじっと見る。

    「癸水(けいすい)に乙木(おつぼく)……そして巳火(しか)。」

    シャガラは謎の言葉を発すると、口角を上げる。

    「な、なんですか?」
    「いやぁ、ほんまよぉ当たるなぁと思ってwついついニヤけが止まらんわw」

    そう言ってシャガラは扇子で口元を隠す。シャオは不愉快だと言わんばかりに眉間に皺を寄せる。たかが生年月日などで、オレの何がわかるというのか?分かってたまるものか。不機嫌なオレの顔を見て、目の前の男はますます嬉しそうに目を細める。

    「癸水(けいすい)に乙木(おつぼく)、これは若木に静かな水を表しとる。」
    「はぁ……。」
    「簡単言うとまだまだ伸び代ありってとこやなwでも伸びるには光が必要や。光はシャオは持ち合わせとらんから、光となるヒトが必要や。ただ、癸水(けいすい)はそんな凄い水やない。光に近付き過ぎると枯れてまうから気ぃつけや?」
    「……。」

    なんだろう、この納得のいかない感じは。光は自分だとでも言いたいのだろうか?確かに今の自分の状況に当てはまるが、この男はオレの事をよく知っている。ただのこじつけにしか聞こえない。

    「ふふwまぁとりあえず最後まで聞いてや?最後の巳火(しか)は知恵と策略の星や。好奇心旺盛で、興味あることには深入りしてまうタイプやな。蛇のように静かに近づいて、じっとチャンスを待つ。」

    眼鏡の奥で、シャガラの眼光が鋭く光る。胸の奥をジリジリと焼かれるような感覚。シャガラは得意げな顔をしてどんどんと続けていく。まるで腹を開かれ、素手で中をまさぐられるような感覚が続く。

    ……気持ちが悪い。

    シャガラの声色、照らし出される顔、お香の煙、揺らめく蝋燭。全てが気持ち悪い。嫌な汗が首筋を伝う。上手く、息ができない。もう、やめて欲しい……もう……

    「シャオ、大丈夫か?顔白いで?」

    そう言うとシャガラはシャオの顎を手で持ち上げた。シャオはただ、目の前の男の眼鏡に反射する蝋燭の炎を眺める。すると、シャガラは立ち上がり、シャオの後ろに回り込んだ。そして後ろから包み込むように、シャオを抱きしめる。ふわりとシャガラのいつも纏っている香の香りに包まれる。

    「ごめんなぁ、ついつい夢中になりすぎたわ。ヒトには誰しも知られたないことはある。無理せんでええ。」

    そう言ってシャガラは優しくシャオの頭を撫でた。

    「でも、ワシの占い、当たるやろ?」

    耳元で、低い、落ち着いた艶っぽい声が響く。

    シャラン……

    金属音が部屋に響く。スルリと、シャガラの手が、服の中に入り込んでくる。シャガラの手は、直接ゆっくりとオレの腹を優しく撫でる。息が、出来ない。

    「想像以上の反応や……やっぱりシャオは可愛らしいなぁ?」

    机に置かれた銅鏡に、体をまさぐられる自分の姿が映る。鏡越しにシャガラと目が合う。動くどころか、声を出すことすら出来ない。まるで金縛りにでもあったような感覚に、底知れぬ恐怖を感じる。

    「ワシはもっと、シャオの事知りたいで?なぁ、もっとワシに見せてや?」





    あの後の事はよく覚えていない。ただ、目が覚めたのはシャガラの寝室だった。そして、その日は、一日中、震えが止まらなかった。


    -end-




    鶏鳴狗盗(けいめいくとう) - ニワトリの鳴き真似や犬のように忍び込む=つまらない才能でも役立つことがある。占いをつまらない物だと舐めていシャオだったのだが、こんな事になるなんて……
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