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    shirone_chiro

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    shirone_chiro

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    彼岸花シャオは、真っ赤に咲く花を眺める。
    この屋敷には、至る所に植木鉢が置かれている。最初は、雑草のようなものをなぜ育てているのかと不思議に思っていた。けれど最近になって、その正体が彼岸花だと気づいた。

    「綺麗やろ?」

    オレの視線に気付いたシャガラは、書類から顔を上げて微笑む。そんな彼の机の上にもまた、手折られた彼岸花が花瓶に活けられている。

    「はい。しかし、彼岸花は不吉な印象が強い花だと思うのですが……。」
    「せやなぁ……『火事になる』とか、『死人が出る』とかやろ?」
    「はい。」

    そもそも『彼岸花』という名前が不吉だ。それに、この時期になると、何の予兆もなく景色を一瞬で赤で埋め尽くす。なんとも言い難い不気味さがある。シャガラは花瓶から、1本の彼岸花を抜き取る。

    「彼岸花の別名知っとる?」
    「……いいえ。」
    「曼珠沙華(まんじゅしゃげ)。」

    シャガラの口角が、楽しげに上がる。

    「曼珠沙華は別の国の言葉で『天界の華』って言われてるんや……。地上でそれに触れられるんは、まさに天からの贈り物……幸せの予兆とされてんねんで?」

    シャガラは手に持った彼岸花をクルクルと回す。

    「これを気持ち悪いと感じるか。綺麗やって手に取るか。その差が、幸せになれるかどうかの分かれ道やと、ワシは思うんや。」

    そういうとシャガラはおもむろに立ち上がり、彼岸花をオレの耳元にそっと刺す。

    「綺麗やなぁ。ええ花瓶や。」
    「……。」

    シャガラはオレの姿を眺めると、満足したのか自分の机に戻り仕事を再開する。彼の机上の香炉から立ち上る煙が、花瓶の曼珠沙華に巻きつくように揺れる。その姿は酷く美しく見えた。



    「……。」

    シャガラの資料製作の手伝いをしている間も、チラチラと赤い花弁が視界に入る。シャオは立ち上がると、耳元の彼岸花を手に取り、シャガラの机上にある花瓶に戻した。

    「お返しします。」
    「……なんで?」

    彼はキョトンとした表情で俺を見上げる。

    「仕事の邪魔なので。」
    「え、ワシの話し聞いてた?」
    「それに、私は花瓶ではございませんので。」
    「ちょっwごめんやんw」

    シャガラの楽しそうな声が室内に響く。そんな彼を無視して仕事に戻る。

    ──彼岸花は貴方の元にあるから曼珠沙華となる。

    シャオは、曼珠沙華の奥で目に涙を浮かべて笑う男の姿を、横目で眺めた。
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