Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    Sea

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 2

    Sea

    ☆quiet follow

    ツンデレ百合です。幼馴染み大好き。

    ##百合

    七月。
    真夏の纏わりつくような熱気を振り払って、私は走っていた。

    待ち合わせ時間は7時50分!!
    現時刻!7時48分っ……!!

    視界の端に、ムチのように飛び回る髪。いつもお昼を買っていくコンビニも、今日は素通り。
    大丈夫!いつもはもう合流できてる時間だけど、今私は走っている。歩くよりも速いのだ。大丈夫だって!


    「遅刻。暑い」
    「はっ...はひゅっ……ご...ぜぇ、はあ、ごめ……」

    ショートボブを汗でぐっしょり濡らし、息も絶え絶えな私。見ないで下さい。
    しれを、涼しげな顔をして見下ろしてくるロングヘアの美少女。言葉とは裏腹に、汗一つかいていない。どこかの童話のお姫様と錯覚する。
    うっ、隣に並べないでくれ...。

    「日焼けしたら陽菜が責任取ってくれんの?そもそも”成海と一緒に学校行きたいよ~~!”って行ってきたの誰だっけ」

    「それ小学校の時の話ィっっあ、でも待っててく」

    「は?もう先行こうかと思ってたよ。汗だくの女が叫びながら全力疾走して来るから、他人のふりしようかと思った」

    食い気味なお姫様。その目はまるで、虫けらの糞でも見ているよう。
    なんでこういう時だけいっぱい喋るの...他のときもいっぱい話してよぉ…。
    泣いてない、泣いてないぞ...。

    「ねえ、到着しても動かないってどういう了見?暑いなあ〜〜〜」
    「待ってぇ…!膝笑ってるからあ!」
    「もう置いて行こうかなこのゴミ…」
    「ちくちく言葉!よくないと思います!!」
    先にせかせか歩いて行ってしまう成海を、また走って追いかけるのでした。
    あ゙ー、暑い……。




    校舎に入ると、クーラーの冷たい風で一気に身体が冷える……
    なんてことは、この田舎の高校ではあり得ない。生ぬるい外の風が舞い込むのみ。贅沢を行ってはいけない。この地獄のような密室に、風が吹くだけマシなのである。

    「最悪、汗くさ。こっち来ないで」
    成海は髪をかきあげ、フローラルのような香りを撒き散らしながら、生ゴミに集るハエを見るような目をする。
    確かに、朝からずっと走り通しだったから汗だくだ。
    ワイシャツはびしょ濡れで、気持ち悪い。

    「ごめんね…あああ暑い……」
    第2ボタンを外して、生地を肌から離すように摘む。
    パタパタ動かすと、外気が入って気持ちよかった。

    「ちょっと涼しいよ!成海もん゙ぐふgdjfっ!?」
    成海の方を向いた瞬間、綺麗な右ストレートが決まる。
    何!臭すぎて耐えられなかった
    「見苦しいのよ!!!」
    「理不尽!!」

    階段を2階分上がり、右に曲がると、私たちのクラスに着く。
    いつもより遅く登校したため、結構な数のクラスメイトが既に席に着いていた。

    「陽菜〜!遅いの珍しいねえ」
    「どうせ寝坊でしょ」
    「違わい!」

    一斉に声をかけられる。寝坊疑惑は全力で否定せねば。イメージダウンだからな。寝坊だけど。

    さっきまであんなに暴言を吐いていた成海は、急に静かになる。私や人の輪からスッと離れて、誰に声をかけることもなく自席に着いた。いつものことなので、見守っておく。
    一通り雑談を済ませ、私も椅子に座った。
    ああ、やっと心を鎮められる。ふう。

    「あ、ちょっと、あんた透けブラ」
    「えっちょっ待って」



    放課後。
    4時半をまわり、教室には私と成海だけ。
    知識の過剰摂取によってショートしている私の頭に、成海はチョップを繰り出した。

    「なに…ねむい…」
    「待っててって言ったのあんたでしょ。さっさと帰るよ」

    それも小学生の時の話…。
    起きないとまたチョップされるなあ…。ただでさえ愚鈍な脳細胞がこれ以上減るのは困る。起きなきゃ、と思うのに、手足は鉛になったみたいに重くて、こっちの命令を聞きやしない。
    「やだ〜…もうちょっと」
    「………」
    「お願い〜…」
    「…30秒したら椅子引くからね」

    ん?
    ギッと椅子を引く音。成海が隣に座ったのが、気配で分かる。
    あれ、絶対引きずられると思ったのに。元気がないのだろうか。夏バテかなあ?
    熱を持った瞼を無理やり持ち上げる。
    頬杖をついた成海と目が合う。
    まっすぐに私を見る目。長いまつ毛が小刻みに揺れている。艶のある長い黒髪が、肩から机までカーテンのように垂れていた。
    ゆっくり口を開く。成海はぴくりと反応した。そして、私の言葉を待つように、目を伏せた…。


    「もしかして、日頃の私への態度を反省して…?」
    「ねぇ喋れるんなら立てば〜?」

    ガタン!
    ちょ、まだ30秒経ってない…!!!



    お尻を擦りながら、ローファーをつっかけて外に出る。
    夕方だというのに、外の日差しは現役だ。
    私はすぐに焼けちゃうけど、成海は全然焼けないよなあ。

    「陽菜」

    鞄で日差しを遮っていると、後ろから声をかけられ、思わず振り返る。

    成海は昇降口に突っ立ったまま、こっちを見ていた。
    自分が呼んだくせに、目が合うと、開いていた口を閉じてしまう。
    どした、と声をかけるけど、首を振るばかり。そこから動こうとしない。
    髪の毛がカーテンのように表情を覆い隠している。
    私は昇降口の中に戻った。
    成海の横に立つ。いつもみたいに蹴られないので、ちょっと安心。
    成海の方は向かず、ただ外の景色を眺めた。
    さっきの声が、母親に置いていかれた子供みたいで。
    縋るような響きがあったから。

    何分経っただろう。
    顔を上げた成海は、いつもの不機嫌そうな眉根を寄せた
    顔。
    何事もなかったかのように歩き出したので、文句を言いながら後を追う。

    「…なに」
    「昔みたいで良くない?」

    追いついた私に、振り向いた幼馴染みの顔は少し赤い。
    しっかり握られた自分たちの手を見て、むっとした顔をする。
    それでも離さず歩きだすと、「先を歩くな」とお尻を軽く蹴られる。痛い。

    繋いだ手は、私の汗で湿っている。
    怒られるかなと思ったけど、
    振り返った私の目に映る幼馴染みは、見間違いかもしれないけど、多分ちょっとだけ笑ってた。

    花のような笑みに少し見惚れ、
    それから、私も顔いっぱいで笑ってみせる。
    ひだまりの中を、私達は手を繋いで歩いていった。


    「私が日陰いくから、あんたはそっちね」
    「理不尽!!」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works