「お兄ちゃん、入るよ」
ノックをしてドアを開ける。部屋では兄が一人で机に向かって事務作業をしている。パソコンの画面を覗き込むと、どうやらメールで送られてきた資料に目を通している。周りには領収書や請求書といった紙類も散らばっている。兄の横顔を見る。長いまつげは伏せられ、真剣な眼差しだ。こうして見ると、やっぱり端正な顔をしていると思う。私は兄のこの表情が好きだったりする。しばらくすると兄が顔を上げてこちらを見た。
「麻里、入ってくるならノックして」
「したよ」
「集中して気づかなかった、ごめん」
申し訳なさそうに謝る兄を見て、なんだか可笑しくなった。信じられる?これでも組長だよ?まあヤクザって名ばかりの会社だけどね。そんなことを思いながら、私はソファの上に腰掛ける。ギシッという音とともに私の体重を受け止めるクッションが沈み込んだ。
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