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    李坂怜菜

    @jlHt3jBv2ElSdJ5

    つなとら、楽トウの文章を書いたり書かなかったりします。文章の転載は使用料を頂きます、ありがとうございます!(無断転載は請求に伺います🫶)
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    李坂怜菜

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    楽トウ。楽への片想いを自覚したトウマがネットの匿名掲示板で恋愛相談する話。トウマ視点。
    ※いわゆる『●ちゃんねる』とは掲示板の仕様が違います。

    こちらのお題お借りしました、ありがとうございました!(トウマ視点にしたので書き切れてませんが楽側の事情がこちらで窺えます)⬇️
    https://odaibako.net/odais/57407f6e-65fe-4a79-a97a-9798288451d5

    見知らぬ誰かの手を借りて八乙女楽に恋をしてしまった。

    その字面だけ見れば、なんらおかしなことはない。ファンでも身近な女性でも、八乙女楽に恋をする人間なんてこの世に溢れるほどいる。
    じゃあ何がまずいかって、何を隠そう、この一文の主語が俺であることだ。
    狗丸トウマは、八乙女楽に恋をしてしまった。
    ほら、救われないだろ?


    何よりもまず、俺も八乙女も男だ。俺だって元々は決して男が恋愛対象だったわけじゃない。今回が初めてだ。だから悩んでいる。
    そしてまた、ŹOOĻとTRIGGERの関係を思い浮かべれば更に苦悩は増す。あんなことをしておいて、あろうことか「恋をしました」?口が裂けても言えるわけがない。
    家族にも友人にもグループのメンバーにも言えない。言わなくていいのだが、でも、1人で抱えれば抱えるほど想いは強くなる一方だった。これではいつか暴走してしまうかもしれない。それだけは避けなければならない。
    困り果てた俺は、顔も知らない誰かに助けを求める他なかった。


    というわけで夜、俺はスマホ片手にベッドの中でうんうんと唸っていた。なんて検索すればいいのか分からない。試しに『片想い 同性 どうする』などと入力して、あまりの恥ずかしさに頭を抱えた。俺は一体何をしているんだ。
    そう簡単に望む回答が得られるとは思っていないが、祈りを込めてひとまず検索をかけてみる。胡散臭いタイトルのページがたくさんヒットして萎えていたが、その中で一つ目に留まるものがあった。
    『匿名掲示板』
    誰かが挙げた議題に対し、匿名で自由にコメントを交わすことができる場だ。あまり使ったことはないが、その中に『恋愛相談』のカテゴリがあるのを見つけると藁にも縋る思いでクリックしてしまう。

    様々なタイトルの掲示板が並んでおり、その中からなるべく参加人数の少ない入りやすそうなものを選ぶ。タイトルは何の捻りもない『恋愛相談NO.35』。
    チャット形式で様々なやり取りが交わされた形跡が窺える。しかし現在は話題に欠いているらしく全然動きがない。俺は緊張しながら、半ばヤケクソ気味に相談を打ち込んだ。

    14『同性の人を好きになってしまいました。過去に酷く傷付けたことがある相手で、絶対に好きになってはいけない人です。なのに大好きで、日に日に気持ちが膨らんでいって、どうしたらいいか分かりません。どうやったら上手く諦められますか』

    書き込みを投稿すると“14”と採番された。どうやらこの掲示板を利用している14人目の人物ということらしい。一応どれとどれが同じ人の発言なのか分かるようになってるんだな。
    しばらく待っていると立て続けにいくつかコメントが続いた。しかしその内容は『同性は無理だろ、乙』『押し倒したら行けるって!』等の冷やかしばかりだ。
    相談する場を間違えたな。そんなふうに落胆して先ほどの投稿を消そうとしたその時。

    08『そいつとは今喧嘩中なのか?』

    他と比べて明らかに親身になってくれている、08番のコメントが目に入った。
    特定の1人への返信はどうすればいいのか。よく分からないので、そのまま全体に対する形で答えを打ち込む。

    14『喧嘩はしてないです』
    08『連絡は取れるのか?』
    14『取れます。ご飯とかも普通に行ける』
    08『マジか。それなら十分脈あるよ』

    08さんの優しい言葉に涙が出そうになる。嬉しい。もっといろいろ相談したい。

    14『でもだからこそ、仲良くしてもらってる現状を壊したくなくて』
    08『ああ、そういうことか。分かるよ。それはキツいな』
    14『08さんは同性に好きになられたらやっぱり困りますか?』

    なんてことを聞いているんだ。送信した直後に事の重大さに気付き、慌てて削除の項目をクリックする。しかし当然の如く手遅れだった。

    08『実は俺も今、同性に恋してる』

    え、と思わず声を上げる。外野がまた冷やかしのコメントを打ち込んでくるが、俺も08さんも一切無視している。
    そうなんだ。08さんも同じ境遇なんだ。だからこんなに優しく寄り添ってくれるんだな。

    08『きっとあんたの恋する相手も、真剣に受け止めてくれるよ。無理に諦める必要なんかない。頑張れ』

    顔も名前も知らないその人の言葉が、心に沁み渡って勇気に変わっていく。

    14『08さん、良かったらまた明日も話聞いてもらっていいですか?』
    08『もちろん。待ってるよ』




    それから数日、毎晩チャットに顔を出しては08さんに恋愛相談を持ちかけていた。彼(おそらく男性である)は俺の話を全部真剣に聞いてくれて、いつも前向きな言葉を返してくれる。
    何より、後ろめたい気持ちで想い続けているのをとても深く理解してくれて、その上で「相手もきっと本音で話したいと思っているはず」「想像しているよりずっと、相手はあんたをちゃんと見てくれるはず」と何度も励ましてくれた。
    そのおかげで少しずつ俺も前向きな気持ちになってきて、たとえ許されない恋だとしても、下手に隠すんじゃなく当たって砕けた方が潔いのではと考えるようになっていた。

    14『08さん、俺告白することに決めました』
    08『そうか!きっと大丈夫だよ。頑張ってこい』
    14『はい!たくさん元気と勇気をもらったおかげです。結果はまた報告するので待っててください!』
    08『俺も14からたくさん勇気をもらったよ。せっかくだし俺も告白してみようかな』

    「え!!」
    深夜にも関わらず遠慮のない大声を上げてしまった。近所からのクレームが無いかしばらく怯えていたが、インターホンが鳴ることも壁ドンが聞こえることもなかった。危ない危ない。
    それにしても、まさか俺がキッカケで08さんも告白するなんて。何だか嬉しい。1人じゃないって気持ちになれる。

    14『08さんなら絶対いけますよ!お互い頑張りましょうね!』
    08『ああ。頑張ろう。健闘を祈ってるよ』

    同じ掲示板にいる他の人達も、最初こそ冷やかしばかりだったが今や全員が応援モードだ。次々に投稿される「頑張れ」の文字に、俺の気持ちは更に前のめりになっていった。




    「八乙女!」
    待ち合わせしていた飯屋に遅れて到着すると、既に個室に通されていた八乙女は「よう」と手を上げて応えてくれた。「久しぶりに2人で飯でもどう?」なんて軽いノリで誘ったのだが、真の目的は告白なのだから心底忍びない。
    八乙女がやけに嬉しそうにニコニコしているので、どうしたのかと問うてみる。
    「狗丸に会うの久しぶりだから嬉しくてさ」
    そんなふうに返事をしてくるのだから、この男はどうしようもなく罪作りだ。そう思わないか?

    一通り食べ終わって一息ついているところで、いよいよ本題に入ろうと気合を入れる。
    「あのさ八乙女」
    「なあ狗丸」
    よし!と勢いをつけて声をかけたのと、同じ勢いの八乙女に声をかけられたのは全く同時のことだった。
    完全に出鼻を挫かれた俺は、それでもこのまま行かないと二度と言えなくなるような気がしていた。
    「八乙女!あの!」
    「ああ、先にどうぞ。どうした?」
    「俺!八乙女のことが好き!」
    目を瞑って勢いに任せて伝え切る。
    数秒置いてからゆっくりと目を開けると、八乙女は豆鉄砲を食らった鳩のように呆気に取られた顔をしていた。
    「………えっと、八乙女?」
    「え?あ、ああ、うん」
    「その、き、聞いてた?」
    「聞いてた。ものすごく」
    「あ、そう……」
    「…………本当か?」
    八乙女にしてはやけに小さな声で、窺うように問われる。なんだか少し可愛いなと思って、頬が緩んでしまいそうになるのをどうにか堪えた。
    「本当に決まってるだろ。嘘なんか言わない」
    「ああ、そうだよな」
    「別に返事が欲しいわけじゃないんだ。ただ、伝えなきゃダメだって思って。それだけだから」
    「俺も」
    「え?」
    「俺も、好きだよ」
    八乙女は照れくさそうに視線を逸らして微笑む。「まさか先を越されるとはな」なんて頭をかきながら言うから、俺は思わず見惚れてしまった。
    八乙女も俺を好き?
    そんなこと、あるわけないのに。
    「狗丸、俺たち両想いなんだな」
    「え、えと、その、そういうこと、なのかな?」
    「そういうことだよ。なあ、お互いのどこが好きか一つずつ言い合ってこうぜ。先行は俺な。まず何より漢気があるところ」
    「待て待て待てペース早すぎ!!まだ俺そこまで追いついてない!!」
    心底楽しそうな八乙女に完全に置いてけぼりを食らいながらも、彼の頬が赤く染まっていることに気付いてこの上ない幸せを噛み締めるのだった。




    14『告白成功しました!付き合うことになりました!』
    08『やったな!俺も無事に付き合えたよ』
    14『マジすか!おめでとうございます!』

    どうやら08さんも上手くいったらしい。これで一安心だ。俺、08さんとここで出会えて本当に良かったな。

    08『聞いてくれよ。俺、告白しようと思ったら相手に先を越されたんだよな』
    14『え、どういうことですか?』
    08『告白しようとしたら、タッチの差で相手に先に告白された』
    14『えー!すげぇ!』
    08『だろ?あまりにもタイミングが良いから呆然としちまってさ。嘘つく奴じゃないって分かってるのに、無意識に「本当か?」って聞いちまった』

    「………………………」
    そこでようやく、ようやく、ようやく、思い当たる節があるような気がして手を止める。
    ちょっと待て。
    まさか。

    14『08さん。あの』
    08『どうした?』
    14『今から電話かけるんで、もし鳴ったら出てください』
    08『電話?どういうことだ?』

    スマホを操作し連絡用アプリに切り替える。通話ボタンを押し、相手が出るのを待つ。

    このあと電話に出たその男を、名前の代わりにとある数字で呼んでやる。そしてきっとその数秒後の俺には「どういう偶然だよ!!」と叫ぶ未来が待っているんだ。ああ、なんて世界は狭いんだ。








    0×『おい、08と14落ちたぞ』
    ×2『2人知り合いだった説マ?』
    1×『てかこれワンチャンそういうことやろ』
    3×『うーわすげーのリアタイしちったー』
    ×0『映画化待ったなし』

    俺達が抜けた後の掲示板がしばらく密かに盛り上がっていたことを、俺達が知ることはない。

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