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    李坂怜菜

    @jlHt3jBv2ElSdJ5

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    李坂怜菜

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    楽トウ。人魚パロ。トウマが人魚。

    お題『水』『沈む』『透明』
    ありがとうございました!

    ※海で溺れる描写があります。

    透明な赤に沈む暗い。冷たい。息が苦しい。

    乗っていた船が嵐に見舞われた。
    ある程度の大きさはあったが、所詮は船。これほどの悪天候には勝てなかった。ひっくり返りはしないものの、真横になるほど波に揺られた。
    乗客の阿鼻叫喚が耳を刺す中、俺は懸命に掴まっていた船のヘリから手を滑らせ、勢いのままに転落した。

    予報では晴天のはずだった。
    俺、もしかして雨男なのかな。

    海へ放り出された俺は、なす術もなくただ沈んでいく。必死に手を伸ばすが何も掴めない。このまま死ぬのだと思ったら、途端に恐怖が押し寄せてきた。
    思わず息を吸ってしまう。水を吸い込んで、咳き込んだら余計に苦しくなって、叫びたいのに声が出ない。
    助けて。
    手を伸ばしても、何も掴めない。

    「おい!大丈夫か!?」

    海の中なのに声が聞こえた。幻聴か。走馬灯か。知らない声だ。とても美しい声だった。
    声の正体を知りたいが、とても目を開けられる状況じゃない。
    必死に手を伸ばす。
    何度も水を掴んで、そして、何かに触れた。
    人の手だと分かった瞬間、俺は意識を手放した。







    「…………う、ぅ」
    目を開けると同時に激しい頭痛に襲われる。呼吸に違和感を持った次の瞬間、何かが込み上げてくる感覚がして思わず咳き込んだ。
    「げほっ、げほ、ごほ、っ」
    「だ、大丈夫か?」
    隣から声がして思わずビクリと身体が跳ねる。目が合った声の主は申し訳なさそうに眉をハの字にして何度か瞬きをする。
    「ご、ごめん、急に声かけて」
    「い、いや、っげほ」
    声を発するとすぐに喉が詰まりまた咳き込む。声の主は慌てて俺の肩に手を置き心配そうに顔を覗き込んできた。
    赤い髪の男だ。上半身裸で、濡れている。海の中に居たのだろうと容易に想像がつく。
    自分ももちろんびしょ濡れだ。船から落ちたことも、水の中での出来事も覚えている。そういえば、あの時聞いた声はこの男のものだったような気がする。俺を助けてくれたのだろうか。
    「無理に喋んないほうがいいって!人間は水の中で呼吸するとやばいんだろ?死にかけだったんだからしばらく安静にな」
    「…………?」
    発言の違和感に気付くのと、視界がそれを捉えるのとは、ほぼ同時だった。
    男のヘソの下あたりから、人間の肌とは違うものが続いている。
    赤い鱗。長くしなやかに続くその先端には、魚の尻尾。
    「………………にん、ぎょ……?」
    「あー、えと……うん」
    男は尚もハの字の眉で答える。
    人魚なんて初めて見た。こんなにも美しい存在なのか。
    ついでのように周りの景色を見回すと、なるほど、ここは浜辺のようだ。俺は岩場で寝かされており、トウマは身体を海に浸けたまま俺を介抱してくれていた。
    いつの間にか空は晴れている。嵐なんて知らないような、とても穏やかな海だ。
    「俺のこと助けてくれたのか」
    「うん。沈んでるの見つけて、つい」
    「そうか。ありがとう」
    目を真っ直ぐ見て感謝を告げると人魚は目を丸くして、それから頬を赤らめて顔を背けた。
    「いや、そんな、別に俺は何も」
    「俺は楽。あんたの名前は?」
    「と、トウマです……」
    「何かお礼がしたい。何がいい?」
    「いやいやいらないって!全然!大したことしてないし!」
    「何言ってんだ、命の恩人だろ」
    そこでトウマは一層困った顔をしてから、パッと俺から離れると背中を向ける。
    「俺、実はその、人間に見つかっちゃダメって言われてたんだ。だから本当はこういうの、しちゃダメで」
    そのまま海の方へ進んで行ってしまう。
    手を伸ばすが、溺れた直後の人体が俊敏に動けるはずもない。その手は届かず、水面を叩くだけだった。
    「待ってくれ!誰にも言わないから、だからもう少しだけ一緒に」
    「ごめんな。さよなら」
    いよいよ去ってしまうと分かり、俺は重い身体を起こしてどうにか引き止めようと身を乗り出す。
    全然届かない。追いかけることも出来ない。
    それでも諦められなかった。
    「うわっ!」
    体制を崩して岩場から転げ落ちる。
    溺れる恐怖に全身を支配された、その瞬間。
    「何やってんだよ!!」
    すぐに抱き抱えられて再び岩場へ乗せられた。
    すぐに戻ってきてくれたトウマは、大層心配そうに俺の身体を支えている。
    「あーもう!どうすんだよ!俺絶対怒られる!」
    「ありがとな、助けてくれて」
    「ばか!危ないことすんな!」
    「悪かった。怒るなよ」
    「ったく……。あーあ、鱗引っ掛けちまった」
    トウマが岩場に張り付いた鱗を見て残念そうにぼやいた。俺を陸へ乗せる際、岩場にぶつかって剥がれてしまったらしい。
    剥がれた部分は痛くないのかと疑問に思いながら、俺は岩に張り付く鱗を手に取り、日の光にかざした。
    薄らと赤く透明なそれは、日に照らされキラキラと輝いている。
    まるで、世界で一番美しいもののように見えた。
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