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    Ichi

    @1_tuchiwahi

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    壱です!
    らくがきとか進捗とかいろいろポイポイして、
    溜まってきたら支部にまとめています🤲

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    Ichi

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    前からちょっとずつ書いてたやぎしず現パロ(記憶なし)です
    会社員八木さんと大学生おしずのおはなしですが、まだ二人が出会うところまでしか書けていません

    小説初心者であまりにも筆が遅い 頑張ってどうにかもっとLOVE ROMANCEさせたい……

    ##やぎしず

    会社員八木さん×大学生志津摩くんの現パロ(題名未定) ふいに鼻腔をくすぐる石鹸のにおいに足をとめる。だが、すぐにまた歩き出した。これじゃない、とつぶやきながら。
     この香りは先ほど既に嗅いだものだった。また同じところに来てしまったようだ。
     次に香ったのは清涼な石鹸とは正反対の、鼻の奥にこびりつくような甘い香り。癖の強い香りに八木は思わず眉をしかめる。あまりにおいが強すぎるものは彼の好みではない。
     仕事終わりに駅ビルの大型雑貨店で自分の部屋に置くディフューザーを探していたのだが、人一倍に匂いに敏感だった彼は、なかなか自分好みの香りを見つけることができなかった。
    「あの……何かお探しでしたか?」
     ラベルとにらめっこしている八木の背中に突然背後に突然声がかかる。振り向くと大学生だろうか、若い男の店員がこちらを見上げている。
    「ああ、いや――」
     八木が返事をしようとしたとき、頭上のスピーカーから音楽が流れていることに気づいた。閉店時間が近いらしい。辺りを見渡すと八木と目の前の店員のほかに誰も居なくなっていた。
    「うわ、すみません。すぐ出ます」
    「あっ……ちょっと待ってください!」
     出口のほうへ向かおうと駆け出したところで焦った店員の声に呼び止められる。
    「急かしたくて声をかけたわけじゃないんです。ごめんなさい」
     店員が申し訳なさそうにこちらにやってくる。鞄にしまっていたスマホで時間を確認すると、閉店まであと十分ほど時間があった。
    「ディフューザーをご覧になってたようですが……何かお決まりですか?」
    「いや、まだ特には……」
    「じゃあ僕がお手伝いしますよ!」
     食い気味の若い声が八木の言葉を遮る。
    「今日はもう少しでお店しまっちゃいますけど……僕、この時間だいたいシフト入ってるんで、良ければまた来てください!」
     若々しく屈託のない笑顔で店員は微笑む。閉店間際までいる客によくここまで気が使えるものだ。
     接客業も大変だな……などどうでもいいことを考えながら、結局八木は何も収穫のないまま帰路についた。
     仕事の疲れと慣れない店にいた疲れでもう何もしたくない。リラックスするためにディフューザーを探しに行ったのにこれでは本末転倒ではないか。接客してくれた店員には悪いが、もうあの店に行くことはないだろう。
     この時はまだ、そう思っていた。


     八木はここのところとにかく疲れていた。会社では部下が大きめのミスをしたためそのフォロー、上司からはお前の監督不届きだと怒鳴られ、しばらく残業が続いていた。
     八木は定時を超えて人気のなくなったオフィスに響くほどの大きなため息をついた。
     最近何もかもついていない。家の風呂では湯沸かし機能は壊れるし、最近越してきた隣人はうるさいし、かと思えば、雨の中通勤したら車に水を掛けられるし……まったく数えだしたらきりがない。
     それに最近は忙しくて数少ない友人と愚痴を言い合うようなこともできずにいた。
     独身の八木は人と会話をするのも最近は会社の人間との業務連絡くらいで、まして背が大きくて圧があり目つきも鋭いからか、何もしていないのに面と向かった相手に怯えられることも多々あり、挙句の果てにますます深くなるクマが極悪面に仕上げる始末。気づけば人も寄り付かなくなっていた。
     孤独で惨めな気持ちから逃げるように煙草を吸う数はさらに増えていく。休日さえ酒、煙草、睡眠で一日が終わる。
     このままでは本当にどうにかなってしまいそうだ。
     必死に残業を切り上げ、会社の最寄り駅に向かう。いつもより早い時間に来たためか、人が多かった。人混みにいると、いくらか気が紛れる心地がする。
     目的もなく駅をぶらぶらと歩き回っているうちに気づけば隣接するビルに入っていた。平日の駅ビルには、自分と同じように退勤後に訪れる客も多い。
     どこを見てもお洒落な雰囲気にいつ来ても慣れないが、欲しい商品を探すのに没頭しているOLや、二人で楽しそうに散策するカップル……そうした人それぞれの流れを見ていると、ふらふら歩いているだけ自分もその一部になっているような感覚に少し胸が軽くなる。
     そうして店内をなんとなく歩き回っていると、あの、と突然後ろから声がかかる。
    「この間ディフューザーを探してた方ですよね」
     どきりとして声の主のほうを見ると、そこにいたのは見覚えのある店員だった。いつの間にか周囲には雑貨屋のエリアが広がっていた。
    「お久しぶりです! また来てくださったんですね。何お探しでしたら、良ければ僕が一緒に回りますよ!」
     若い男の店員はなぜか嬉しそうにしている。そういえば前にディフューザーを探しに来た時にも声をかけてきたのもこの店員だった。
     あのとき会話したのもほんの数分で、あれからしばらく日にちもたっているのに覚えているなんて、仕事熱心な若者だな……。
     疲れはてている自分には眩しくて思わず目を背けたくなるが、今はただ店員の気遣いが嬉しかった。
    「じゃあ……お願いします」
     そう言うと彼はキラキラと目を輝かせて、より一層笑みを深めた。
    「はい! わからないことがあればなんでも聞いてください」
     そういって彼は胸についているネームプレートを八木にみせる。
    「僕、アルバイトの田中です」
     このエリアの田中は僕だけなので覚えやすいと思います、と少し照れくさそうに笑う。自然で人好きのしそうな笑顔にこちらも心が緩んでしまう。
    「八木です。今日もディフューザーを探しに……」
     ここへ来た本来の目的ではなかったが、ディフューザーが欲しかったのは嘘ではない。
    「それなら向こうですね。八木さん、行きましょう!」
     こっちです、と先導する彼――田中の後を追う。
     歩き出すと、ふわり、と石鹸のような、さわやかな優しい香りが漂った。ハッとして辺りを見渡したが、ここら辺はスマホカバーなど売り場で、結局どこからの香りかはわからないままだった。
     目的地に着くと辺りの空気は一変し、ぶわりと強い香りが立ち込める。
    「八木さんは香りの好みとかありますか? イメージとか、なにか似たものがあれば教えてください」
     田中が振り返ってこちらを見上げた。
    「あんまり癖のない爽やかな香りがよくて……たとえるなら石鹸みたいな」
    「なるほど。それなら近いものがいくつかありますよ」
     これとかいかがですか、とすぐそばの商品を勧められる。ためしに嗅いでみると、案の定爽やかさのなかに、お菓子のような香りがほんのりただよう。
    「うーん……これはすこし甘すぎるな」
    「それならこっちはどうです?」
     田中がまた別なものを渡してくる。八木が微妙な表情を浮かべる。数回繰り返しても、いまいちピンとくるものがない。
    「そうだ」
     ふと、田中が思い出したように手を鳴らした。
     八木さんこっち、という田中の後を追うと、陳列の一角に特設コーナーが小さく展開されていた。
    「これ新作なんですけど、爽やかでありながらやわらかくておすすめです。僕も好きな香りです」
     八木もパッケージを見ようとして近づくが、田中も香りを試してもらおうと動いたらしい。思いきり正面からぶつかってしまった。
    「うわ……ご、ごめんなさい!」
     田中が慌てて身体を離したその瞬間、スマホカバー売り場で嗅いだ香りが漂った気がして、はっと我に返る。
    「あれ、今の香り……」
    「え……えっ⁈ あ……こ、これですか⁉」
     田中は顔を真っ赤にしてうろたえている。ぶつかったのはお互い様だが、わたわたと落ち着かない様子の田中に思わず笑みがこぼれる。
    「すみません、俺が無駄にでかいせいで、ぶつかった衝撃ぜんぶ田中さんのほういきましたね」
    「いえ! 俺は痛くもなんともありません! ただちょっとびっくりしただけで……八木さんがなんともないならよかった」
     田中の一人称、普段は「俺」なんだなあとぼんやり考えていると、店内に閉店間際のアナウンスが流れ出した。
     またディフューザー探しに熱中している間に刻限が来てしまったようだ。田中が申し訳なさそうに八木を伺う。
    「ああ……もうこんな時間に……。 お力になれずごめんなさい……僕のほうから声をかけたのに」
     新作のテスターを手に持ったままの田中の背中がどんどん縮んで見える。
     最初こそ彼のはつらつとしたオーラに気圧されそうになったが、素直で人懐っこい彼といて、八木の心は、抱えきれないはずの大きすぎた孤独をいつのまにか忘れていた。
    「いえ、むしろたくさん説明を聞かせてもらいながら試せて良かったです。あ、そういえば、それ……」
     八木が田中が手に握りしめていたものを指す。
    「それ、買います」
    「これ……ですか」
     八木は頷いた。
    「実際に部屋に置いてみないと分からないから。試しに買ってみるよ」
     そう言うと、顔を上げた田中の表情がみるみる明るくなる。
    「これ、僕も好きなんです!」
     あ、さっきも同じこと言いましたね、と田中は照れを隠すようにテスターを棚に戻して、中身が入った箱を手に取る。
    「田中さんもそれ、持ってるんですか?」
    「や、まだ買えてはなくて……」
     田中は照れながら答える。
    「僕、大学通いながらここでアルバイトしてるんですけど、恥ずかしながら金欠で……この新作は初めて嗅いだ時から好きなんですけど、ちょっと値段が高くて手が出せなくて」
     じゃあ、レジ打ってきますね、と箱を抱えて田中がそそくさと先立つ。
     八木は少しだけ立ち止まり、やがて同じ箱を手に取ると、急いで追いかけた。
     レジには田中以外のスタッフはいない。
    「田中さん、これもお願いします」
     あと袋も、と言って八木が自分で持ってきた箱をレジに乗せると、田中がちょうど一つ目のバーコードをスキャンしたところだった。
    「あれ……もうひとつ、プレゼント用ですか?」
    「いや、自分用なのでそのまま通してもらえますか」
     わかりました、と田中は二つ目も続けてスキャンする。
     人気がないからか、レジの操作音がやけに響いていた。
    「おまたせしました。お買い上げ、ありがとうございました」
     受け取ったレジ袋からひとつだけ取り出した八木は、もう一つを袋ごと田中に渡した。
    「それ、あげます」
     え、と田中が目を見開く。
    「でもこれ、自分用って……」
    「嘘です」
     う、嘘……と呟きながら、田中は袋の中を見つめている。
    「今日は探すの手伝ってもらって、本当に助かりましたのでせめてもの気持ちです。要らなかったら……フリマアプリとかで売ってください」
     急に自分のしていることが恥ずかしくなってきて、八木はもう一度感謝の言葉を伝えると逃げるようにその場を離れた。きっと、もうここには来れないだろう。
    「八木さん、待って‼」
     田中の大きな声に驚いて振り返ると、彼が袋を抱えてこちらに向かってきていた。
    「今度、お礼させてください! 何も返せないのは嫌です……だから、絶対また来てください!」
     来てくれるだけでいいので、と叫ぶ田中に、従業員としてそんなこと言って大丈夫なのだろうかと内心焦る。
    「大事に使います!」
     ああ、使ってくれるんだな、と田中の言葉に独りでに心が和む。八木は軽く礼だけを返して出口に向かった。
     帰りの電車に乗り込み、箱を鞄の上からなぞる。
     今日は彼に会えてよかった。
     帰宅して早速箱を開ける。しだいにふわりと清潔感のある優しい香りが漂ってきた。しかしその香りは八木の予想を裏切った。
    「これ……あの時の匂いじゃない」
     じゃあ、スマホケースの売り場や、田中とぶつかったときの香りはいったい……。
     八木の中には心当たりがひとつしかなかった。
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