風下の恋 屋上に続くドアを開けるなり、煙草と強い香水の匂いが一郎の鼻を掠めた。
「……ンだテメェ。誰に断ってドア開けやがった」
給水タンクの土台に腰掛けて煙草を吸っていた先客が、一郎をぎろりと睨んだ。碧棺左馬刻。一郎と同じ一年生。思わずハッとしてしまうほど容姿端麗だが、素行不良で悪い噂には事欠かない。コースが違うため別校舎のクラスで、かつ左馬刻と同じく不良として名を知られ友人の少ない一郎でも、その存在をハッキリと認知していたくらいの、札付きの不良だ。
「カギ開いてたぜ」
「だから何だっつーンだ? この俺様が今使ってんだろーが。気ィ遣えや」
「ンで俺が気ィ遣わなきゃなんねーんだよ。全然スペース空いてんだろ。わりぃが好きにさせてもらうぜ」
8915