わんにゃん🩸14「え、ここ久しぶりすぎ」
「悠仁」
「なんで?夢?夢で逢いたいって言ったから?マジで?」
「悠仁……」
そこは暖かい場所だった。あの渋谷で抱き締められて眠った時のよう。暖かくて木漏れ日が優しくて何時までも居たくなるような。
テーブルを挟んで向かいに座るのは、ずっと逢いたいと思っていた人だった。
「脹相」
「お兄ちゃんな、また失敗してしまった」
逢いたいと思っていた人は果たして、出だしから落ち込んでいた。いやなんでよ。
「なに?失敗?ここに呼んでくれたんじゃねえの」
「ようやく呼べたんだ……」
「じゃ、成功じゃん、俺会えて嬉しいよ」
そこで脹相はようやくニコリと微笑んでくれた。心做しか生前より憑き物が落ちたような顔をしている。
「俺も会えて嬉しい」
はあ、とまた脹相はため息をついた。
「どう言えばいいのか……俺は死んだはずなんだが、あの後もしばらくその辺をさ迷っていたんだ……成仏出来なかった……いや、人間部分と呪霊側が剥離されたような」
「ほう?」
「一時的に、自分は何者で何をしていたか分からなくなっていて、そのうち悠仁の事を思い出したんだ。お前の傍に居たいと思うあまり、犬にでも猫にでも入り込んで傍に居られたらと」
「……話が怪しくなってきたな」
「こ、恋人みたいなことをしていただろう?おそらくなんだが、兄である自分と恋人としての自分が分離してしまったようで、犬と猫にそれぞれ……」
「それ研究材料にされるよ」
「そうだ、それで色々あって今に至る」
「自己完結して端折るから説明が分かんなくなるんだろ」
「う……」
「じゃああの二人はお前なの」
「無意識下の俺だ。まるで映画を観ているようだ」
「そっか……」
俺はニマニマと緩む口角をコントロール出来なかった。脹相は眉間に皺を寄せて困り果てている。
「俺、お前を裏切ったような気持ちだったんだけど」
「浮気ということか?」
「うん、忘れられるわけないのに、似た顔の奴二人も相手しちゃって後ろめたかった」
「そんな……悠仁には前を向いて生きていて欲しい……だが、まあ結果的に俺だった訳だが……」
脹相はそこで顔を真っ赤にして両手で隠してしまった。俺はニヤニヤが止まらない。
「色々と……恥ずかしいことを……」
「したね。可愛かったよ。お前だと分かったし、なら全部嬉しかった」
脹相は一通り照れた後、あの時みたいに穏やかに微笑んだ。嫌な予感がする。
「さて、もう、中途半端なのは終わりにしないとな……悠仁の術式なら犬猫から俺を剥せるだろう?」
「いやだ」
「悠仁、俺はもう充分お前と過ごした。嬉しかった」
「いやだ、まだデートもしたいし映画観に行きたいし飯作って貰いたいし、俺18になったら免許取って車買うから、それでドライブに連れて行きたい。」
「悠仁……」
「……くっつける」
「うん?」
「くっつけて1つにする。そうすれば元の脹相だろ?あ、でも……選べないかも」
「選ぶ?」
「犬か、猫か、俺どっちも好きだから……犬猫の意識はどうなってんの」
「憑依されたみたいな感じだな苦痛ではないようだ」
「まとめて俺が幸せにしてやるか、お前はどっちがいい?犬にまとめるか猫にまとめるか」
「それは俺なのか?」
「ん、む〜?でも、元が犬猫で、お前が憑依したことで体すら変わったんなら、やっぱりお前の存在の方が強いんだろ、前みたいに。それに剥がしたら死ぬ可能性だってある。現状このままが一番安全かもしれないけど、それじゃ元のお前がずっと苦痛なんだろ」
「…………」
「また失敗したとか言うなよ?終わったことだ、この先を考えねえと」
「任せる……悠仁が選んでくれ、どちらにせよ悠仁の推測が正しかったのなら犬にも猫にも人格は偏らないはずだ」
「う〜ん、そうか〜、う〜ん、ちょっと考えさせて。お前だけどあいつらに愛着湧いちゃって。お別れもしたい」
「……ふん、そうか……ああいうのも好きか……」
「妬いた?自分に」
「ちょっとな」
俺は椅子から立ち上がり脹相の元へ向かった。手に触れる。暖かくて泣きそうになった。
「もうここへ呼べないかもしれない」
「じゃあ次は現実世界でだな、絶対取り戻すから」
「悠仁……」
「好きだよ」
「俺も、悠仁が好きだ」
最後にキスをした。触れた頬もどこもかしこも暖かい。日向の匂いがした。