Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    1852m海里

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 30

    1852m海里

    ☆quiet follow

    神様が叶えた願い蜻「蜻蛉切、ただいま戻りました。」

    審「ああ…疲れた…。」蜻「主、少しは休まれた方が良いかと…。」審「これだけ…これだけだから…。」蜻「そう言ってかれこれ一時間も経っております!もし主に大事が起こってしまったら…。」積み重なる多忙に完全に囚われてしまい、ここ最近になって彼の心配性度合いが増した気がする。審神者の力あっての刀剣男士。主のことが心配になるのも無理は無いのだろうが、彼は、蜻蛉切は私に対して特にこうだ。寝不足、過労が続いている為か、出陣させた刀たちも気がつけば疲労していることが多くなっており、審神者として管理不足が目立つことも増えた。この一大事に彼がいち早く気づいてくれたおかげで今はなんとか今まで通りの業務をこなせている。彼の判断力、行動力にはいつも圧巻させられる。謙虚なのにたくましい、そんな彼に私は完全に惚れ、首っ丈なのだ。彼とならどんな困難も乗り越えられる。私はそんな気さえしていた。

    厚「検非違使!?!?」蜻「ああ、だからこの部隊での出陣だそうだ。」厚「そうだよな…みんな大将のために強くなって帰ってきたんだ…戦おう。」審「蜻蛉切ならやれるよ。隊長として、みんなを守ってね。みんなの無事の帰還、待ってます。」蜻「は、必ず責務を果たします。では総員、いざ出陣する!主、ご朗報、お待ちくだされ。」審「みんな、行ってらっしゃい。」彼らは皆、修行から帰ってきて強くなった極の刀たち。今までも何度か検非違使には勝利してきた。彼らなら大丈夫と、私は信じていた。蜻蛉切は私に決して嘘をついたことが無かったから。

    彼らはなんと数時間後にもう任務を終わらせて帰ってきた。確かに検非違使が相手だからと、隊長である彼の提案もあって極の刀だけで任務に向かわせたが、まさかそんなにも強くなっていただなんて。本当に全ての約束を守って戻ってきてくれる人だ…。頼もしい…かっこいいなあ。審「みんな、お帰り。任務お疲れ様。」蜻「蜻蛉切、ただいま戻りました。結果を報告いたします。」

    今夜はみんな任務お疲れ様会を思いつきで開いた。自分は主の命に従っただけで…とまたまた謙虚なことを言う彼の言葉そっちのけでいつもより多めの食卓を皆で囲った。

    深夜、珍しく寝つきが悪く、ただうだうだと寝転がっていた。数十分経ってようやく眠気がやってきた頃、誰かが廊下を歩く音が聞こえてきた。厠に行く刀だろうとその晩はそのまま眠りについた。

    朝になり、いつもより騒がしい本丸の皆の声で目が覚めた。月「おや、起こしてしまったか。いや、すまないすまない。いつもの”ヤツ”の姿が見えないものでな、こちらにきているのかと思ったのだ。」審「ヤツ…?」まだ寝ぼけている私に続けて三日月は”ヤツ”の名を口にした。月「蜻蛉切だ。」え?蜻蛉切って言った?蜻蛉切が何?姿が見えない?変な汗が流れてきた私は三日月に思わず詰問のように、知ってることを全て吐かせるように、今起こっていることを説明させた。今朝から蜻蛉切の姿が見当たらないこと、散歩がてら本丸中を回るも見つからなかったこと、祢々切丸と山にでも行ったのかと思ったが祢々切丸が本丸にちゃんといたこと、内番かと思ったが非番だったこと、シワひとつ付いていない布団だけが部屋に残されていたこと。嫌な予感がした私は、出陣部隊の確認を行なった。私は思わず顔を青ざめる。審「第一部隊、隊長、蜻蛉切…一振り。」月「昨日の出陣で何かあったのか?」後から様子を見にきた厚くんが返す。厚「そんなはずないぜ、俺たちはちゃんと一匹残らずせん滅してきた…あ。」月「何か心当たりでもあるのか?」聞くと、思い返せば昨日の出陣から戻る際に蜻蛉切の様子が少し気になったとのこと。”何かを落とした”ような、と。厚「大将、俺たち、あいつを迎えに行ってくる。」審「あ、え…。」突然のことに考える頭が働かないのを早くに察した彼がそう言って部隊を結成し、出陣していった。

    蜻「あった…よかった…思っていたより長引いてしまったな。それでもこれだけは失うわけにはいかないのだ…。ともかく、主が起きる前に早く帰還せねば…。」厚「おい!!!」蜻「!?」厚「何やってんだよ!!大将に黙って、しかも一振りで出陣なんて…何考えてんだ!!」蜻「…ああ、皆に心配と迷惑をかけてしまったな、悪かった。しかし自分も…」自分の声を遮るように落雷音が重なった。空間に大きなヒビ…検非違使!?ああ、盲点だった。目的は違えど、我らのような刀剣男士も歴史に干渉するのであった。自分の身勝手な行動がこのような結果をもたらそうとは…刀剣男士失格だな。厚「今は言い争ってる場合じゃなさそうだな。」蜻「…ああ。」厚「いくぜ、俺に続け。」

    厚「大将、ただいま。」審「厚くん!!!お帰りなさい!!みんなも大事に至らなくて……?」五振り…?一振り足りない。彼がいない。蜻蛉切がいない。審「と、蜻蛉…切、は?」厚「大将、結果を報告するぜ。」そう言って彼は落ち着いた口調で今回の出陣で起こったことを全て嘘偽りなく正直に報告してくれた。蜻蛉切が私情で黙って出陣していたこと。帰る際に検非違使がまた現れたこと。責任を取ると言って彼が皆の盾になって先陣で戦ったこと。そして最後に厚くんから一つの小さな箱を渡された。主に渡すように、と蜻蛉切から頼まれたものだそうだ。中を開けるとそこには小さなお守りが入っていた。これは私が昨日の出陣前に、彼のために作った手作りのお守りだ。すでに一つお守りは持たせていたが、これは恥ずかしながらお揃いにしたくて徹夜で作った世界に一つだけのお守り。ああそうか、彼は昨日の戦いでこのお守りを落としたことに気付いてわざわざ黙って探しにいってくれていたのだ。世界に一人しかいない彼だけの私が作った、世界に一つしかないお守りだから。何にも変え難いものだから。私たち審神者にはたくさんの刀剣男士たちがついてくれており、想う相手などいくらでもいるが、彼らには私たち審神者しかいないのだ。言ってくれれば彼のためならいくらでも作れるのに、これを彼はまるで宝物のように大切に持ってくれていたのだ。中のお守りを持つと、箱にはまだ少し重みがあり、白い布をめくるとそこには槍の先の欠けた刃があった。私の背丈よりも遥かに大きかったあの槍は、手のひらに収まってしまいそうなほどに小さく、体温が刃先にまで伝わりそうなほどに持った熱は、嘘だったかのように冷ややかになっていた。私はその日、長く泣いた。月がてっぺんに昇る頃まで長く泣いた。

    その晩、私は夢を見た。蜻「主。」審「蜻蛉切…?蜻蛉切……!!」思わず幼子が母親に飛びつくように、かけて行って抱きついた。審「なんで…なんであんなことを…。」蜻「申し訳ありません…申し訳ありません…。」何度も何度も訴える私に彼は何度も謝ってくれた。違う、私は、怒っているけれど、悲しいけれど、そんなことを言いたいんじゃない。もう会えないなら、これが最後の夜なら。審「蜻蛉切、私、あなたのことずっと好きだったの。ずっと、ずっと前から、ずっと…。」蜻「主。」そう言うと彼は抱きつく私を大きな体で、大きな腕で、大きな手で、優しく包み込んだ。蜻「自分はずっと気付いておりました。主の想いに。自分の心には、いつも主の想いが届いておりました。主の想い、いつもここに。」そう言って彼は私の手を取って彼の胸に当てた。彼の鼓動が手を伝って聞こえてくる。ああ、いつまでもここにいたい。これが夢だなんて信じたくない、覚めないでくれ。蜻「主、勝手を承知で自分の願いを一つ、聞いてもらえないでしょうか。」審「…?」蜻「もし、また自分が鍛刀されて主の元に帰れたら、また主の側に仕えても良いでしょうか?この蜻蛉切、もう二度と、独りにさせないと誓います。」そんなのずるい。そんなこと言われたら断る理由が無い。私は二度とあなたを失いたくない。あなたの側から離れたくない。審「もちろん…当たり前だよ。必ず、必ず私の元に帰ってきてね。」蜻「ありがとうございます。…ああ、もう朝になってしまいます。…主、最後に、いつもの帰還のお言葉をいただけませんか。」私は彼の腰に下げている小さなお守りが微かに揺れたのを見て、彼に最期の言葉を送った。審「おかえり、蜻蛉切。」そう言うと彼は笑って光に消えた。

    数日後、鍛刀が完了したとの知らせを受け、鍛冶場に向かうと一振りの大きな刀剣男士がそこにはいた。大きな背中、上に向かってスラッと伸びた刃先、ワインレッドに染まった束ねられた長い髪。紛れもない、蜻蛉切だ。心の奥底から溢れそうな気持ちを抑えながら挨拶をする。審「初めまして。」蜻「自分は村正作の槍、蜻蛉切と申します。三名槍の一つとして……。」途中で言葉を詰まらせ、私の顔を見るので思わず聞き返すと、彼は驚いたような顔をして言った。蜻「あ、るじ…?」審「…???そ、そうだよ?今日から私があなたの…。」彼は私の腰に下げている一振り目の彼とお揃いのお守りを見ていた。審「ああ、これ気になるよね〜…。これは…。」全て話すとややこしいので簡潔に説明しようとすると、声色を変えて改めて彼は話した。蜻「かける言葉を間違えました。改めさせてください。」審「…?」困惑していると彼は見覚えのある穏やかで、柔らかい表情で、愛おしそうに私に言った。

    蜻「蜻蛉切、ただいま戻りました。」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works