本当は。【出会い編】石「石切丸という。」審「わあ…。」私が審神者になる前に初めて見た刀剣男士が彼であり、素敵だなあと思っていた刀剣男士。石切丸。最初は好青年のような人だと思っていたが、会ってみるととても綺麗な顔立ちをしていながらもたくましい体型をしており、とても穏やかで落ち着いた声色をした本当に神様のような刀剣男士だった。存在感に圧倒されてしまい、固まってしまった私に彼は思わず笑みをこぼした。石「あはは、そんなに固くならないで。私はそこまで偉い人じゃないよ。君の力で生まれた、君のためのこの身だ。今日からよろしくね。」審「よろしくお願いします。」なんて完成し切った性格の刀なのだろう。頼れる存在すぎる。彼ならきっとこの本丸の大黒柱となって皆を引っ張っていってくれそうだ。…と思っていたが。
石「おや、主、おはよう。私のところへ来たから参拝者かと思ったよ。」審「違いますよ〜…。」石「主、服は床に置きっぱなしにしないで、きちんと片付けなきゃ駄目だよ。」審「は〜い…。」石「ほら主、もう寝なきゃ明日の業務に支障が出るよ。」審「うぅん…。」お父さん???本当に神様なのか疑いたくなるくらいに想定していた倍以上人間味と親御味が強い刀だな???やる事が多く、手がなかなか回らない私のために近侍補佐として身の回りの手伝いも頼んではいたが、これではまるでお父さんだ。これから彼のことをパパとでも呼んでやろうか。そんなことを考えながら過ぎていく日々だった。
鶴「よっ、鶴丸国永だ。俺みたいなのが突然来て驚いたか?」審「よろしくお願いします。」石「鶴丸さん。鶴丸さんもこの本丸に来たんだね。」鶴「おっ、石切丸だな。まさか石切丸もこの本丸に来ていたなんてなあ。ははは、こりゃ驚きだ。」審神者「今日は近侍の鯰尾が出陣に出てるから私が本丸を案内するね。よかったら石切丸さんもどう?」石「良いのかい?じゃあお供させてもらおうかな。」鶴「じゃあ、しゅっぱーつ!」
鶴丸国永がこの本丸に顕現してから数ヶ月経った頃、彼に一目惚れしていた私はかねてより彼とお付き合いすることになった(※白翼の輪参照)。それから私は、石切丸と過ごす時間が少しずつ鶴丸と過ごす時間と反比例するように少なくなっていった。それでも石切丸の役割は近侍補佐。以前と業務内容が変わったわけでも無いので、彼は今も変わらず本丸全体をまとめてくれている。審「少し休憩…少ししたら起こして…。」鶴「ああ、おやすみ。…なあ、石切丸。」石「なんだい?鶴丸さん。」鶴「俺たち、顕現してからもう何ヶ月も経ったんだなあ。この身を得ても、この本丸で過ぎていく時は本当に早いもんだ。」石「そうだね。私たち刀は何百年も前から存在している。そう考えるとここでの日々は本当にあっという間だよ。」鶴「そうだな。」石「ところで、私に何か用事があったのでは?それとも、祈祷でもお望みかい?」鶴「ははは、まさか。いやまあ、ここはひとつ言っておかねばと思ってな。」石「?」鶴「お前なら分かってくれるだろう。人様のものに関わるときは自身の言動に気をつけた方がいいぜ。いつ狙われるか分からないからなあ。俺も、お前も。」
鯰「あー、主の髪に白い毛が混じってるー!鶴丸さん何かしたでしょー。」鶴「おお怖い。しかしなあ、今回ばかりは俺は何もしてねえぜ。」若白髪が分からない彼らに説明してもきっと伝わらないだろう。どころか余計に心配されそうだ。昔から若白髪が多いが、それを知らない刀たちも多くいるため、恋仲になった鶴丸が神気染めしたと騒がれるのも無理ないだろう。石「どうしたんだい?今日はいつにも増して賑やかだね。」鯰「ちょっと聞いてくださいよ。」鶴「おい、これ以上話をややこしくするな。」鯰「でもー!」結局鯰尾がその日のうちに勘違いの噂を本丸に広めまくっていきやがった。あの野郎。石「まあまあ、そういうこともあるんじゃないかな。神様だからそんなこともできてしまうかもしれないだろう。」審「石切丸さんまでー!!!」
その晩、お風呂を済ませて部屋に戻ろうと廊下を歩いているところに彼と鉢合わせた。審「あ、石切丸さん。」石「おや、主。今から戻るところかい?」審「うん。もう今日は眠いからすぐ寝るかな。」石「そっか。」彼は少し考え込んだ様子で一瞬俯き、顔を上げると言った。石「すまない、少し良いかな。」審「!?」そういうと彼は私に近付き、お風呂から上がったばかりの私の髪の匂いを嗅いだ。石「使っているシャンプーは私や皆と同じなのに…黒髪に混じる白髪か…。」審「石切丸さん…?」少し離れて彼は私の髪に触れて言った。石「妬けちゃうな。」随分前に上がって火照った体は、いつまでも湯冷めをしなさそうだ。