バサミレの日によせて…ふわふわ…ふわふわ…
頭の中に薄いもやがかかっている。
うまく考えられない。それでも、(あ…そろそろ目が覚めるのかな…)あたしはゆるゆると覚醒していく。
『…ん…』
ゆっくりと瞼を開く。
カーテンを締め切っていない隙間から薄明かりが漏れていた。夜明け過ぎ…くらいかな…?目が覚めてくるのと同時に、頭の中も感覚も覚醒してくる。
と、いつもの目覚めとは違う、違和感-…
そう、違和感。
いつも抱きついて眠るぬいぐるみとは、頭を預ける羽根枕の感触とは明らかに違う、力強くしなやかな筋肉の感触。そして、心地よい温かさに鼻腔をくすぐる覚えのある香り…
『…え…?』
隣 に 誰 か い る … ! ?
ミレーヌは勢いづけて起き上がろうとするが、その時に初めて自分が素っ裸だと気がつく。
そして、違和感の正体が起き上がろうとするのを阻止しているのだ。
『え、え、えっ、なん、で…?!』
ミレーヌの困惑している声で、ソレは小さく呻いてミレーヌを更に抱き寄せる。
『え!?バサ…ラ…?』
そう、違和感の正体はミレーヌのバンドメンバーであり想いを寄せている男、熱気バサラであった。
そして彼も例に漏れず素っ裸でミレーヌを抱き寄せ腕枕で熟睡しているのだ。
『ちょ、ちょっとバサラ!起きてよ、バサラ!!』いよいよ慌ててミレーヌはバサラを揺り起こす。
『んぁ…?っせーなぁ…』
眉間に皺を寄せ、いかにも快眠を妨げられた風情でバサラは瞼を開く。
『な、何であたしココに寝てるの!?何で、なんでハダカ!?!?』
寝惚け眼のバサラに抱きすくめられ、恥ずかしいやら訳がわからないやらで混乱しながらも問いただすミレーヌ。
そんなミレーヌを呆れ半分、愛おしさ半分といったなんとも言えない表情で見つめながら、覚えてねぇのかよ…とバサラは呟いて更にミレーヌを抱きしめる。
『ちょ、苦し、バサ…』
バサラは抗議の声をあげようとするミレーヌの自分よりやや尖った耳や薄めの耳朶へフッ、と息を吹きかける。
『ぁんッ…!』思わず甘い声を上げるミレーヌ。
そんなミレーヌの反応に満足した表情のバサラが苦笑いしながら『ちょっと落ち着けよ。何でって、オマエ、昨日のライヴの打ち上げでアキコさんが飲んでたスクリュードライバーを一気飲みしたからだろが』と、あやす様に話しかける。
…そうだった。昨日のライヴ、新しい衣装が嬉しくて、更にライヴも大成功で嬉しくて楽しくて、ハイになってたんだった。
で、だ。
どうやらその時にオレンジジュースと勘違いして、隣にいたアキコさんが飲んでいたスクリュードライバーを飲み干して…それから…
それから…?
『記憶がないんだけど…』
羞恥心のため顔を赤らめたり、何か仕出かしたのかと若干青ざめたりしているミレーヌ。
表情がクルクル変わるミレーヌを面白そうに見つめるバサラ。
『まぁ、オマエみてーな酒飲み慣れてないのがアレ飲んだら、ベロンベロンになるわな』
『たっ、確かにそうだけど…でも、だからって何でバサラとあたしが一緒に寝て…』
言いかけてハッとする。
そうだ、あたし今、ハダカだ…!!
そして、バサラ、も…
『ッ、きゃあああッ!!』
半泣きでシーツを掻き抱く。昨日の夜、打ち上げの後、何をした…!?
焦ってベッドから降りようとした瞬間、腰に甘い疼きが走りその場に崩れ落ちる。
転げ落ちそうになったミレーヌをバサラはぐい、と抱き寄せた。
そしてバツが悪そうに、『昨日の晩は無理させちまったみたいだな…今は急に動かねェ方がいい』と囁くように呟く。
『え…あの、それって…』
ミレーヌだって一応お年頃だ。男女がひとつのベッドで、全裸で抱き合ってるということは…そういうこと。
『あたし、バサラとエッチしちゃったの…?』
『まだしてねーよ!!』
慌てたように、そして少し焦れたようにバサラは否定する。
『まだ?まだって事は…でも、裸だよ!?』
『酔って正体をなくしてる女を抱くような真似はしねェ』-ましてや、惚れている女を…
ただ、昨晩の酔ったミレーヌから発せられた少女とも大人の女ともいえない色香に当てられたのは確かだ。
酔いつぶれたミレーヌをバサラへ預け、介抱しときなさいな。但し、無茶はさせない事ね。としたり顔のアキコに言われ、ライヴの後の高揚感がそのまま欲情となってしまっていることに気が付かされたバサラは、自分の部屋までミレーヌを連れて来てしまったのだ。
が、いざとなるとさすがのバサラも躊躇いが出てしまう。無理やり抱くような真似はしたくない。
仕方なしにミレーヌの衣装を脱がせ、下着姿にさせると抱き上げベッドへ降ろす。
『オイ、ミレーヌ。オマエなぁ…無防備すぎんだよ…』バサラは苦笑いと共にミレーヌの唇へおやすみのキスをした。
『…ふっ、んん…』ミレーヌの口から吐息が漏れる。うっすらと目を開けたミレーヌは甘えるように、もっと、もっと、ちょうだい。とバサラの首に腕をまわす。
『…ッッ!!ミレーヌ…!!』
もう、止まらない。止められない。
啄むようなキスを数回。
そして深い深い口づけを何度も、何度も。
ピンク色の口唇を何度もなぞり、そこから漏れ出る甘い声も何もかもを奪う。そして奪われる。
『ミレー…ヌ、後悔しねえか?』
『ん…あたしはバサラがいい…バサラにあげたい…』蕩けそうな表情(かお)と甘い声でミレーヌは囁く。
痛くしないでよ?と少し怯えたように言うものだから、バサラは丁寧にミレーヌの身体をほぐしていく。弱い場所を探り、ミレーヌの口から甘い声が漏れるとソコをギターを扱うように触れていく。
『ふっ、ぅん…ああッ!』ミレーヌの肌が淡い桜色に染まる。
『やッ、バサ、ラ、きもちいっ』
初めての快感に酔わされ、何度目かの小さな絶頂を迎えたミレーヌは限界を迎え、そのまま寝落ちてしまったのである―……
『マジかよ…』
…
……
………
『と、言うわけだ。』
『アッ、ハイ…』
ミレーヌはまともにバサラの顔を見ることが出来ず、バサラから背を向けてしまう。
『オイ、ミレーヌ、こっち向けって』
『む、むり!!恥ずかしくて死にそう』
『…ふーん…』バサラがニヤリ、と笑う。そして不意に露わになっているミレーヌの背中へ口づけた。
『んきゃう!!』びくん、と大きく身体を震わせるミレーヌ。そんなミレーヌにお構い無しにバサラは背中への口づけを続けた。
『やッ、バサラ!くすぐったい!』初めのうちは身を捩ってくすぐったがっていたミレーヌだが、そのうち声は甘く蕩けていく。
何度目かの背中へのキスで、くったりとバサラへ身を預けるミレーヌ。
潤んだ瞳でバサラを見上げ、『バサラ、ゴメンね…昨日の、続き、しよ…?』と吐息混じりに囁く。
『待ったは無しだぞ』
余裕のない表情でバサラは深く口づけ、ミレーヌをベッドへ沈めた。
『―で、本日のバンド練習は?』
電話の向こうで笑いを噛み殺した声が聴こえる。アキコだ。
『…あー、今日は無し。休み。』
バツの悪そうな返答をするのは、バサラ。
『あら、珍しいこと』
『っるっせーな…』
『ミレーヌの調子はどうなのかしら?』
『無理はさせて…ねェと…』少々慌てたように返答する声にアキコはついに吹き出してしまう。
『おめでとう、バサラ』笑いながら、お祝いしなくちゃね!とバサラをからかう。
電話の向こうで何やら弁明してるのを軽くいなし電話を切ると、レイとビヒーダにも本日休業日の旨を連絡する。
『さて、これが彼のサウンドにどう響くかしらね』
アキコの計画は始まったばかり…!?
終