ポップンクッキング! 三井と深津はよく松本の家に行く。この3人の中で1番大学から近いからだ。
午前中までの部活の後、課題の設問の意味が分からないということで、今日も松本の家へ行くことになった。
せっかくだからなんか食べながらしようぜやる気出ねーよという三井の提案で、道中スーパーで飲み物と主に肉の惣菜を購入した。
昼食を食べ課題をやっていたら深津が唐突にアイスが欲しいと言い出した。
「アイスが欲しいピニョン」
「家にはねぇぞ」
「白くまアイス食べないとやる気出ないピニョン〜」
松本が素っ気なく返すもアイス食べたい派に三井が便乗する。
「なら俺あれ食べてぇな、ガリガリくんとかソーダ系のよぉ」
「それもない」
2人は顔を見合わせたと思うと揃って掛け声を掛ける。
「「最初はグー!ジャンケンポン!!」」
突然始まったジャンケンの迫力に負けて松本も手を出す。三井深津はチョキ、松本はパーだ。深津は自分の財布を渡し敗者を追い出す。
「アイス買ってくるまで帰ってくるなピニョン」
負けた松本がアイスの買い出しに行かされる。
なんだよ、自分家占拠されてんのにさらに追い出されんのかよ…ブツクサと愚痴りながら松本は近くのドラッグストアに向かいアイスを選ぶ。今日は半額だしどうせあいつらも食べるから多少贅沢してもバチは当たらないだろう。買い出しする人間の特権と思い自分の分はチョコとバニラの箱アイスを選択する。
アパートに戻ると中からパン!パン!と破裂音が聞こえる。慌てて扉を開け中に入ると底の浅いフライパンから小さく白い小さな塊が躍り出て、キッチンにしゃがむ三井と深津が目に入る。
「…なにしてるんだ?」
「ポップコーン作ってたんだよ」
「跳ねて床に転がっていくから食べてるピニョン」
訝しげに問う松本を気にも留めず、三井と深津は床に落ちたポップコーンを拾って食べる。汚いなと思わなくもないが、その前に疑問が湧く。
「なんでそんなものがウチにあるんだ…?」
「そりゃ買ったからに決まってんだろ」
「さっきスーパーで買ったのに気付かないとは鈍いピニョン」
スーパーではそれぞれが欲しいものを勝手にカゴに入れてたし、買ったものをエコバッグに詰めてたのは深津だったから中身はあまり見ていなかった。というかポップコーンの豆を買ってるとは思わなかった。
「…ちゃんと床掃除しろよ」
「これが最後の一個ピニョン。三井、床掃除しろピニョン」
「えー俺かよ〜まあいいけどよぉ」
任命された三井がアルコールティッシュで床を拭く。
松本は油汚れが除去されたのを確認してキッキンに入る。まずアイスを冷凍庫に仕舞い、フライパンの中身を確認する。
フライパンを見ると作っていたはずのポップコーンは殆ど残ってない。寧ろこんがり焼けた豆ばかりだ。松本は途中から来たため全体量は分からないが、多分飛び散ってた数の方が倍ぐらい多い。
「俺の分は!」
「仕方ないから今から作るピニョン」
面倒臭そうに言う深津に三井が朗らかな声をかける。
「お〜よろしくな〜!」
「おまえはこのポップしなかったコーンピニョン」
「ひっでえ!」
そう言いながら深津は空いてる皿を取り、残ったポップコーンを移し替える。残った豆状態のコーンもしっかり箸で取り分け三井の席に置く。
待ちきれない松本はキッチンを見回し封の空いた見慣れない大袋、固い豆の状態のトウモロコシを発見する。作り方を確認しようにも、大容量のものだからか品名ポップコーン賞味期限来年保存方法と製造者等々最低限しか記載がない。
「なあ、これどうするんだ?!」
「そのままフライパンに入れるんだよ」
「分かった」
大袋のポップコーン豆を切り口からそのままフライパンに投入する。カララララ…金属に豆が当ぶつかり軽い金属音が響く。
「入れすぎじゃねえ?」
「適正量が分からない。でも沢山食べたいよな」
「そりゃそうだ」
深津が後ろからニュッと顔を出す。
「俺作らなくていいピニョン?」
「折角だから自分で作ってみたいな。三井、教えてくれ」
既にポップコーン作りにワクワクしている松本はフライパンの前から退く気がない。作り方を知ってる三井を捕まえ調理を始める。
「おう。たしかこの後混ぜて塩と油を染み込ませる」
菜箸で豆を混ぜていると
「今度は飛び散らないよう蓋か何かで押さえるピニョン」
「蓋だな。えーっと…これかな」
三井を避かし、コンロ下の収納から蓋を探す。見つけたフライパンに合った蓋をしっかりと閉める。深津は用は済んだとばかりにテーブルに戻って行った。
「最初は強火で、弾けだしたらフライパンを揺するんだと」
強火にかけしばらく待つとポンポン軽い音を立ててガラス製の重い蓋を揺らす。
「だっ…大丈夫かこれ!?」
固く黄色いコーンが弾け出し、段々とよく見る白いポップコーンの形になってくる。
「お〜ダイジョーブ。音が小さくなったら火を止めるんだぞ」
そこまでできたのを確認し、三井はテーブルへ戻り弾け方の少ないポップコーンを摘む。
「あら、こいつ意外と固くないわ」
三井の動向、主に焼けた豆が食べられないかどうかを見ていた深津の手も横から伸びてくる。
「…意外とイケるピニョン」
香ばしい匂いが充満し弾ける音が期待感を膨らませる。
曇ったガラス蓋から白く柔らかそうな塊が見える。蓋を開けガサガサと軽く取り分けるだけで文字通りポップコーンの山ができる。しかし、さっきのものよりも弾けず残った豆の数が多い。
「「なんでだ」」
「フッ、欲深い奴等ピニョン。豆が多すぎると弾けない原因になるピニョン」
深津が物知り顔で原因が表示されたスマホを見せる。欲張って豆の量を増やした結果、食べられる量が少なくなったとは皮肉なものだ。
「んだよ、先言えって」
「今調べたからさっきの時点で知るわけないピニョン」
「仕方ない、ちゃんと片すか…」
松本はまだ食べていない自分の分を多めに、他2人を平等に取り分ける。弾けなかった豆はしれっとおおよそ3等分だ。
今度は深津が腕まくりしキッチンに立つ。
「今度は俺の腕前見るがいいピニョン」
「おう深津シェフ!楽しみにしてるぜ!」
「俺の仇を取ってくれ!」
「任せろピニョン。俺は普通では満足しない男ピニョン。コンソメとかあるピニョン?」
「あるぞ、コンロ下左の引き出しの中だ」
「後で借りるピニョン」
楽しくなった3人は順々にポップコーンを作り出す。
「カレー味もいいよな、カレー粉とかあったっけ?」
「カレールー削るしかないな」
「でもなあ結局塩辛い系なんだよな〜!」
「松本、おまえがこっそり買ってきた箱なにピニョン」
「ああそうだ、ファミリーパックのバニラアイスがあるんだ」
「よっしゃ、それかけようぜ!」
しばらく弾ける効果音と騒ぐ声が聞こえる。
作る楽しさとできる美味しさから、結局3人で1kgのポップコーン豆の殆どを消費した。
しばらくはポップコーンは見たくねぇな!となるまで楽しんだ。